ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書き終え、現在は浦安鉄筋家族について書いてます。桜井のりおは神。

【BLAME! 全話紹介&解説】LOG60 オーガニカル

所変わってサナカンとLEVEL9シボ。珪素生物と戦い、サナカンは敗れてしまう。シボは珪素生物に鹵獲される。統治局にデータが送られたサナカンは、もう一度基底現実に自分を戻すよう嘆願し、実現する。LEVEL9シボが珪素生物に囚われたことを、霧亥は統治局から通達される。そしてその奪還を依頼される。

 

・戦闘中のサナカン。劣勢。珪素生物が用いる剣状の武器によって体を轢断されたのだろう。そしてその攻撃の直撃を受ける。直前に重力子放射線射出装置を放つも、珪素生物の盾に弾かれている。この辺りの珪素生物の武具は相当優秀だ。

・LEVEL9シボ。髪が伸びている。画集には、十数年の旅で髪が伸びたことに言及がある。また、結構意識がありそうな感じがする。倒されたサナカンを気遣うような姿勢。あるいは、描写されないだけで結構シボらしさを取り戻していたのかもしれない。

・LEVEL9シボの受容体に何やら生成されている。そのことは珪素生物も知るところ。早い段階から珪素生物はそれを手に入れようとしてきた。ここでそれが達成されるわけだが、画集に言及がある通り、それまでにサナカンは相当数の珪素生物を殺害した。

 

ネットスフィアに戻されたサナカン。ネットスフィアもなんだか都市空間と似たような感じだなぁ。都市空間に住まう人々が設定した電子的な空間だから当たり前なのかもしれないが。すぐに戻された場所からワープして、統治局? と対話する。

・サナカンの話し相手。彼? に関しては個性の問題と絡めて画集に比較的多くの言及がある。統治局自体に「人格」あるいは「個性」といったものは設定されていない。作中では人工知能に個性を持たせることの危険性が説かれているし、画集にも何度か言及がある。だけれど、ネットスフィアは人間がアクセスする者だから、会話用のインターフェイスが設けられており、そこには幾ばくかの個性が施されている。その幾ばくかの個性がそのまま、何千年と時を経たら……。それはもう私たちの個性と大した変わらなくなる。あるいは、ドモチェフスキーやイコが、電磁的に生成されてから数百年経ったら、その個性は人間のものと相違なくなる。画集によればサナカンの話し相手はそんな相手なのだそうだ。

・サナカンの話し相手。統治局の判断の外的窓口。かなり柔軟な判断を下す。サナカンには統治局の効果はもうない。だからただのモノ。あるいはただの身体。ただの機械。バックアップはない。だけれども、そうした存在を基底現実に下ろす、という判断はしている。すでにセーフガードとの取り決めがなされ、LEVEL9シボを破壊する動きになっている。けれども、サナカンを下ろす。サナカンはもう統治局でもなんでもないから、セーフガードと統治局との取り決めに違反するわけではない。統治局はお役所っぽい印象を持っている。条例や規則を守りつつもサナカンに一縷の期待を込めて基底現実に送り込む。ルールは守るが、発想は柔軟。

 

・さぁ、サナカンだ。画集には、彼女に関しても個性に関係させて述べたところがある。個性付きのセーフガード。個性付きセーフガードはそもそもはそんなに個性がのっかっている訳ではない。だが、シボと10年程同居した。セーフガードとしては無用の長物の経験。霧亥に倒されたあとは、シボとの経験を踏まえた個性サナカンはそのままネットにデータとして置かれていた。別にそれがセーフガードの任務にすぐに役立つわけではないからね。しかし状況が変わった。LEVEL9シボが現れたのだ。セーフガードは不正アクセスする存在を処罰する存在だから、「ネット端末遺伝子の胚を持つ機体の保護」は直接の任務には該当しない。統治局の領分として、LEVEL9シボの保護は設定された。その時都合のよいデータがあった。シボとの経験のあるサナカンだ。ということで、統治局の代理構成体として起用し直されて、サナカンは基底現実で任務に就く。

・サナカンのLEVEL9シボへの保護は十数年間は成功していたが、ついに珪素生物に敗れてしまう。ここで、統治局とセーフガードの取り決めが明らかになる。珪素生物はLEVEL9シボを利用して不正なアクセスをすることが充分に考えられる。珪素生物に捕らわれない限りは、統治局は都市を救う任務を遂行できる。珪素生物に捕まったら、LEVEL9シボはセーフガードにより破壊が試みられる。そういう取り決め。

・サナカンは、もちろんシボと十年間同居して個性を積み重ねていった。シボにより個性がはぐくまれた。シボの優しい考え方なんかを直に見ていた。そうして積み重なった個性は、統治局の代理構成体になった時にさらに調えられ、シボを保護してネット端末遺伝子の胚を孵すという強い役割意識として昇華したのだろう。そして、統治局の代理構成体ですらなくなった時、歯止めのなくなった役割意識はさらに強化されてあの戦闘形態になり、珪素生物を殺戮する流れになる。

・こうして見ると、サナカンは個性をはぐくんできて、ここにしかいないサナカンになってしまっている。広い広い都市のどこかで、珪素生物が悪いことをしてもとのベースのサナカンがダウンロードされるっていうことは結構あることだろう。でもシボと同居してこうした個性を持ったサナカンはここだけ。一回きり。……なんだけど、やっぱり個性としてはすごく単調だ。ネット端末遺伝子を孵す強い意識だけが反響したような存在。なんだか霧亥に似ているなぁと思う。霧亥はネット端末遺伝子を探すことくらいしか興味がない。個性といっても、何か一つが大きい数値になってしまっている。もちろん、そこに「純粋さ」や「ひたむきさ」を感ずることもできるだろう。「AIの悲哀」を見ることだってできるだろう。

 

・サナカン=裾野結説。ネットなどではサナカンは『NOiSE』の裾野結なんじゃないかという説がある。個人的に、論拠足り得るのと思う描写や言及は二ヶ所ある。『NOiSE』のラストの裾野結がサナカンそっくりだと言う点。もう一つは画集の『NOiSE』の作品解説に、『BLAME!』と「共通の人物や勢力が登場する」との言及がある点。共通の勢力とは珪素生物で相違ない。では「共通の人物」とは……? はっきり解らないけれども、これはサナカンと裾野との関連を想起させてもおかしくはない。ただしかし同時に、サナカンと裾野は直接には結びつかないと個人的には思っている。なぜなら『NOiSE』のストーリー通りだと、裾野結はきっと今もどこかであの刀を持って都市空間を彷徨っているだろうから。一方サナカンはセーフガードに起用される存在。この溝をどう考えるか。裾野結がセーフガードに殺され捕らわれた際に、彼女のデータはセーフガードに記録されたことだろう。その後、裾野本体はみんな大好きクローサーの呼びかけで珪素基系の機体ごと脱出した。いわば脱セーフガードを果たしたわけだ。一方、セーフガードに残った人格データなんかがあるのではないだろうか。そんな、裾野のデータが援用され、そのままセーフガードの個性として用いられたのではないだろうか。そう考えると、サナカンは裾野の個性の残渣(ちょっと言い方悪いかなぁ)と考えられるのかもしれない。

・裾野は珪素生物に強い恨みを持っていた。見方を変えて良い表現をすると、警察官として正義感を持っていた。そんな所はサナカンの行動に、とても間接的ながら響いていると見ることも可能だろう。

 

・なんとなくこのようにサナカンを見てくると、霧亥の身体的変遷もわかるような気がしてくる。セーフガード以前から警邏のような職にあり、何かがあってセーフガードとして起用され、また何かがあってその箍が外れて、記憶を失い都市を一つの目的を持って彷徨う。実は霧亥とサナカンってのは近い軌跡を描いているのかもしれない。

 

・再び統治局。モリを使って霧亥に通信①。技術的には、緊急保存パックと統治局とが連携しているからこんなことが可能なのだろう。パックに保存されていた女の子の人格は統治局により電磁的な領域に収容された。パックとネットスフィアは完全に連結している。ということで、統治局はパックに通信できる。

・霧亥への通信②なぜこのタイミングか? まぁ、はっきり描写されているように、シボの保護&感染しない場所への移動は統治局サナカンが担っていた。よくわからないはぐれ者の霧亥には頼む流れではない。しかし事情が変わった。セーフガードが破壊に動き出したから、統治局は手出しできない。いわば在野の存在霧亥にこのタイミングで声掛けしたのはそのせいだ。

・統治局は非常に柔軟で、同じく自ら基底現実に下ったサナカンだけでなく、霧亥にも可能性を賭けている。少しでも可能性を増やしたいわけだ。

・憶えているか? という台詞。統治局、あまり霧亥のことを信用していないのかも。霧亥記憶喪失だし。でも、この点普段ボーっとしている霧亥だってちゃんと憶えているはずだ。だってシボだもの。

・モリは自分の機体に何が起こったのか解らない。モリは、女の子よりもずっと後の世代に生まれて統治局やネットスフィアなんかに直接恩恵を得ていた世代ではないのだろう。緊急保存パックも、たとえばシボがそうしたように使用可能な肉体が近くにあればそれに接続して身体を取り戻すような、そんな使い方をしていたのではないだろうか。緊急保存パックが実はネットスフィアに接続しうることはとうの昔に忘れ去られ(というかそういう権限がとうの昔に失われ)あくまでも基底現実でのバックアップにのみ用いられていた仮説を示したい。だから何が起こっているか解らない。神からの通信のようになってしまっている。