ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。

石黒正数『それでも町は廻っている』13巻

この漫画は、メイド姿でバイトしている女子高生の周りで起こる不思議な事件がお話の基軸になる。ふんだんに鏤められたガジェットやパロディや伏線が、物語へ読者をグッと惹き込む仕組みの漫画だ。

 

 

こうした仕組みゆえ、ネット上には様々な考察が立ち現われていよう。またこの漫画はいわゆる時系列シャッフルが施されており、解釈・考察へ一層熱を帯びる構成になっている。

 

さて13巻では、みんな大好き紺先輩の中学時代のつらい経験について新たな事実が判明した。以前9巻で、中学2年の紺がレギュラーになったことで3年から言い詰められたり、階段から落とされるエピソードがあった。13巻では、紺先輩が何故卓球を始めたのかが語られたわけだが、そのきっかけになった仲の良かった先輩(座成)こそが、紺先輩を階段から突き落とした張本人だったのだ。

 

可愛がっていた後輩を何故突き落としたのか。読者には非常にインパクトのある話だったと思う。

 

私は解釈論とかあまり得意ではない(漫画の師匠筋にあたる人物から「味読9割講釈1割」と言われたことがある。なんじゃそりゃ? って思うが。そして漫画の師匠筋ってなんだよ!)のだが、ちょっとこの問題考えてみよう。

 

座成を擁護してみようか

座成が悪者かっつーと、個人的にはそうは解釈し得ない。

改めて9巻の当該エピソードを見てみると、

①座成の台詞「ごめんね 紺/皆の言ってた事/気にしないでね」において、呼び方が「ふー」ではなく「紺」になっている。

②座成は階段の低いところから紺を落としている。

③片手で押している。

④他の生徒がすぐ近くにいる。

解釈は人それぞれだから実際どうか解らんけど、この辺りから、どうも話は単純ではないように感ずるのだ。座成はほんとうにレギュラーとられてイラついて紺を押したのか? 二人の関係性だけでこの事態は説明しうるのか? 他の生徒からの外圧がこの事態を招いたのではないか? 13巻の内容を加味するとそう感ずるのだ。もちろん①~③なんて人によって180度違う解釈できるんだろうから難しいのだけどね。

 

きっとこの漫画が進むにつれて、直接間接にこの問題については明らかになって行くのだろう。座して待つのみだ。

 

針原さんはどこまで知っていたのか?

最後に。13巻当該エピソードの語り手であった針原は、2年の先輩と3年の先輩とのいざこざどこまで事態を把握していたのか。ついでに話してしまおう。針原本人はいざこざを認知していないように漫画では描かれているけれど、個人的には、針原さんは全部知っていたんだと思うよ。だから13巻では歩鳥にわかりやすく虚実織り交ぜた話をしてさらりと言いにくい部分を隠したんだと思う。

 

紺先輩と座成先輩の出会いを針原さんは知っている。二人だけの出会いのはずなのに、針原さんはしっかり認知している。そして二人の関係性を羨望のまなざしでいつも見ていた。そんな針原さんが、二人に起こったことを感知しないわけがないだろう。それと、針原さんは何故親しみやすい顔をして後輩の面倒見がいいのか。同時にこれも実は考えなくちゃならない。

 

 

 

最後に付言するが、座成の心理はどうあれ、紺は傷つき心を閉ざし、歩鳥がそれを癒し融かすという流れは変わらない。しかし歩鳥は紺の過去を知らなくても別にいい。たとえ主人公であっても知り得ない世界がある。針原にしか解らない箇所もある。この漫画の面白いところはそういう、それぞれ個人の世界の限界をしっかり描いているところだろう。続きが大変楽しみだ。