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ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。

浦安鉄筋家族

前回は短い間にものすごいきらめきを見せたギャグ漫画『チェンジング・ナウ』の話を書きましたが、今回は持続的にきらめくギャグ漫画『浦安鉄筋家族』。

 

ある人は言う。「浦安は中学生まで」。

 

確かにそうかもしれない。しかし浦安の話を向けると「まだやっていたのか」「懐かしい」「○○の話が忘れられない」(○○には例えば、のり子が仁魚という名前の金魚を人工呼吸して蘇生しようとして、息で破砕してしまう話などが入る)なんて感じで、浦安に対して憧憬を向ける人は少なくないのだ。

浦安鉄筋家族 (1) (少年チャンピオン・コミックス)

浦安鉄筋家族 (1) (少年チャンピオン・コミックス)

毎度!浦安鉄筋家族 8 (少年チャンピオン・コミックス)

毎度!浦安鉄筋家族 8 (少年チャンピオン・コミックス)

そしていまだに、中学生に笑いを届けて、私のような大人にも笑い届ける。

 

長い連載で作風も相当柔らかくなった。春巻やフグオなど、初期の激情を伴うキャラクターが、柔和な動きしか見せなくなったり、また激しい出血描写も比較的少なくなってきた。

 

それでも続く。続いていく。この持続力は何なのか。

 

それは偏に、作者浜岡賢次の「趣味」のあり方にある。

 

「浦安」作中には、様々なモチーフやパロディが登場する。そこではビートルズを筆頭とする洋楽、バスターキートンなどの喜劇、ジャッキーチェンに代表されるカンフー、黒沢映画、自動車や煙草などの、敢えて総称すると「ある時代の男の趣味」のようなものが相当幅広く横たわっている。その他、宮崎アニメ、ドリフ、ジーンズだとか、とにかく多様な男くさいバックグランドが見え隠れする。一方表層では分かりやすいパロディキャラが活発に動き回る。こんな感じで、とにかく趣味が立体的に幅広いのだ。そこからお話しを作ってくるから、縦横無尽にネタを引き出すことができるのだろう。一種の知識の体系がそこにはある。

 

浜岡は最近は「萌え」なるものに挑戦している。煙草を愛し、西部劇を愛するようなブロンソンのような無骨な男(想像です)が「萌え」を絡めてギャグ漫画を作るとどうなるか。これはグッと来ざるを得ない。

 

こういう経緯で紡がれる「萌え」にはなんというか、奥ゆかしさがある。乱暴な言い方をするなら、いい年してるけど色々知っている味のあるおっさんが「萌え」を提供するのだ。他の「萌え」一辺倒、一本勝負の作品とは明らかに異なる妙味がある。「萌え」テコ入れの代表例ノムさんだけでなく、のり子やあかねちゃんなど、ベテラン勢も「どうした?」ってほど可愛くなってる。不思議なかわいさを、連載20年ほどして獲得し始めている。

 

今の時代、「萌え」るか「萌え」ないかですべての物事を発想してしまうほど「萌え」は何故か浸透している。が、別にそんなことを考えなくても漫画は読めるし、8年後とかに今と同じような読みが続いていくとは思えない。過去の豊富なバックグラウンドを知識として保有する浜岡が紡ぐ妙味ある「萌え」から、逆説的だがそんなことを考える。

 

「萌え」的読み方の流行が過ぎ去り、ちょっと古臭くなってしまった後でも、浜岡の漫画はひょっこり続いて新しい概念も用いていくのではなかろうか。非常に堅牢な構造を持った漫画なのだ。ギャグ漫画は時代のあだ花になりがちだ。浜岡はそこに男臭い知識体系で立ち向かう稀有な漫画家なのだ。