ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。

4コマよみに与ふる書

2014年2月3日追記

大きく取り上げ引用したにもかかわらず、アンサイクロペディアの「4コマ読みに与ふる書」項(現在はUnbooksに移行)を「四コマ読みに与ふる書」と誤記していました。

ここにお詫びして訂正します。

 

 

 

 

今回は毛色を変えて、「4コマ漫画」論ともいえる文章を紹介してみよう。その名も「4コマよみに与ふる書」。この文章は、グーグルとかで検索する限り世の中にあまり知られていないように思う。だが4コマ漫画や、そもそも漫画という表現に関して痛切なる提言を行なっている。一読に、いや熟読に値する文章だ。

 

何故かアンサイクロペディアで紡がれる珠玉の文章

まずは「4コマよみに与ふる書」と検索してみよう。そして気付く。「4コマよみに与ふる書」は、何故か、何故か、何故かアンサイクロペディアで書き紡がれる文章だ。アンサイクロペディアに「4コマよみに与ふる書」という項目を設けて匿名の筆者がこれを書いている。「4コマよみに与ふる書」なんて書物は実際にはないのだから、実質的に一人の人間がこれを編集し、書き紡ぐ仕組みになる。

 

何故筆者は、媒体としてアンサイクロペディアを選んだのだろうか。アンサイクロペディアはご存知の通りウィキペディアのパロディサイトで、そのサイトとしての妙味は、表向きの辞書的表現を揶揄するところにある。いわばアンサイクロペディアの項目は、既存の概念を面白く紹介するリアクション芸だ。一方で「4コマ読みによふる書」は、非常にオリジナリティがあり、主導的だ。アンサイクロペディアの仕組みを逆手にとりつつ、かつある程度の知名度を持つサイトで不特定多数に向けて文章が書かれる。真意はわからないが、その異質さ、独特の在り方はわかるだろう。

 

表現に明日はあるのか?未来視これを問う。 

さて内容だ。端的にいえば、「4コマ読みによふる書」は憂いている。4コマ漫画の行く末を憂いている。これは延いては漫画というもの、表現というもの、文化というものを憂うに他ならないだろう。憂国烈士ならぬ、憂4コマ烈士という雰囲気が放たれる。

 

特に憂いの標的となるのがバストアップのコマばかりの作品、昨今の風潮である萌えを押し出す作品だ。この二つの要素は、個人的には互いに通底しあう問題点とみえる。こうした昨今の硬直化した表現(筆者は皮肉をこめて「洗練されすぎている」と評す)からは、次代を担う4コマ漫画家は現れぬ、と説く。4コママンガ史のメルクマール的作品を引用しつつ、バストアップなどの昨今の悪しき風潮を歴史的経緯の中から批判する。

 

また「4コマよみに与ふる書」筆者は、漫画家と編集者との間柄を重視する。特に編集者の努力を促す。漫画家の才能を見定め時に伸ばし時に御する編集者は、どこに着目し、何を為して漫画家と編集者と読者の織なす「表現の場」を形成すべきか。こうしたテーマが語られる。当然、このテーマは4コマ漫画に限定されるものではないだろう。漫画や小説、その他ありとあらゆる表現は、実際は作家それだけで完結しない。作品が世に出て受け手が享受するまで、幾ばくかの、幾人かの合議・稟議を経ることになる。そうした「表現の場」に関して非常に敏感なのが本論究の特長だ。私は漫画の感想を書くときついつい漫画家中心観にとらわれてしまう。しかし「4コマよみに与ふる書」筆者は、4コマ漫画の神髄を「表現の場」の淡いに求める。これは特筆すべきことだろう。もしかしたら「業界」の人間か、これに近い人間が書いているのかとも思わせる姿勢だ。

 

具体的な4コマ漫画の引用も豊富で、どの作品(とそれを取り巻いた環境)がどうして表現として優れるのか(あるいはダメなのか)が軽妙な語り口で明らかにされる。その観察は細やかであり、そして体系的だ。おそらく筆者は今まで世に現れた4コマ漫画をほとんど把握しているのだろう。そうした知識の体系からくる文章は、やはりずっしりと重々しい説得力を持つ。一つのジャンル、一つの時代を切りだそうとする気概と知識を兼ねそろえた文章。全く単純な読み物としても面白いし、勉強になる文章だ。それが何故かこれが(もちろん戦略あってのことだろうが)アンサイクロペディアで書かれているんだぜ!とても刺激的なスタンスだ。

 

本当に、是非詳しく本編を読んでほしい。その文章は切実だ。本気で4コマ漫画の行く末を案ずることがひしひしと伝わってくる。これは私たちの世代において、ほとんど忘れ去られてしまった文章で江湖へ訴えるあり方だ。文章で4コマ文化の退廃・危機と戦っている。のんきに自分のために書いたものではない。この気概、私が感じたこの気概をもっと多くの人に伝えたい。もう一度言う、是非読んでほしい。