ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書き終え、現在は浦安鉄筋家族について書いてます。桜井のりおは神。

私説『浦安鉄筋家族』の歴史1 無印1巻〜18巻

はじめに

浦安鉄筋家族。巨編である。驚異的なご長寿ギャグ漫画だ。平成5(1993)年に開始された連載は3度のリニューアルを経験し、幾多の変遷や困難を経ながら令和の現在まで脈々と描き継がれている。

一般にギャグ漫画は連載が続くと損耗しネタが枯渇していく。キャラクターは他のどんな漫画ジャンルに比べても急速にマンネリ化しやすく、持続力が問われるジャンルであると言える。そんなギャグ漫画を著者浜岡賢次は25年を超えて紡いでいる。今週も来週も、コンビニ行けば小鉄やのり子に出会える。驚嘆するべき事柄といえよう。

本稿ではそうした浦安鉄筋家族の歴史を振り返ってみようと思う。一般に浦安鉄筋家族は、無印後半からキャラが可愛くなっていき、元祖から毎度にかけていわゆる「萌え」化が進み、一方でギャグの鋭さは後景に退くことが語られる。こうした流れの中にあることに異論を挟む余地は少ない。だが、そうしたキャラクターやギャグの質の展開・変遷について、その理由やダイナミズム・契機といったものは意外に語られることが少ない。「浦安」の歴史を振り返りながら、時代と共にたくましく紡がれてきたハチャメチャギャグ漫画の内実に迫ってみよう。

基本的な情報についてはwikipediaを見れば書いてあるので、本稿ではそうした外的なデータは必要最低限にして、キャラクターの出入りや変化をこそ主眼に振り返ってみようと思う。

 

無印1巻〜18巻 (1993年6月〜1998年7月) 

まずは連載初期の動向を見てみよう。『浦安鉄筋家族』という漫画タイトルが示す通り、当初は大沢木一家のドタバタが主眼に描かれる。記念すべき連載1発目が象徴的にそれを示している。また当初より目まぐるしく新キャラが登場し作品の勢いを加速させた。すなわち松五郎やボギー愛子、花丸木(と桜)の色モノが連載初期を彩り、物語をリードする。ボギーはやがて稲川ジューンへと役割を委譲していくことになるだろう。うんこネタの最右翼国会議員もこの時期すでに登場する。春巻龍もまた3巻で姿を見せる。他にも44浣腸の穴川ションジーやポセイドン笠原などダイナミックなキャラが投入される。

小鉄のクラスメートもそうした連続する新キャラの中で登場の機会を得る。土井津仁や西川のり子が次々と転校してきて、後の活躍の素地を築いていく。

一方こうした目まぐるしい新キャラ登場の背後では、早くもキャラのリストラや、性格の改変が為されていく。著者浜岡が後に自らネタにする通り、小鉄の初期の友達小枝や本田は早々に姿を消し、仁・のり子・あかね・ノブ・フグオの「小鉄軍団」が4巻〜5巻の時点で一応の成立を見る。家族では早い段階でスタスキーが姿を消し、以降断続的な登場に止まる。晴男は一時期退場し、ほどなく独自のポジショニングを得る。

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浦安鉄筋家族』4巻(秋田書店、1994、96頁)。意外にも、この三者は完全にフェードアウトすることなく現在に至る。

性格が変化するキャラも多い。花丸木は何回目かの登場で「らむー」が口癖になったうえ、服がすぐに脱げる特性を得て、桜と元気にギャグをかます。尖鋭的な性格だったフグオは「キャプー」が口癖になり、甘いもの中心の大食いキャラ、運動苦手ののんびりキャラの地歩を築く。クラスのモブキャラ的位置づけから歩みを始めるあかねちゃんは、うんこに突っ込んだり、何らかの被害にあって流血したりの災難キャラの地位を得る。

こうした連載初期の目まぐるしい興亡は、先述の通り4巻〜5巻の間で一応の落ち着きを見せ、以降10巻くらいまでに難波湾や不二家ペローなどゲストキャラを迎えつつも安定期を迎える。

10巻からは初期のこうした洗練を生き延びたレギュラーキャラがどっしりと構えて、新キャラや旧来の色モノキャラを迎える構図になる。ゲストの登場は比較的少なくなり、レギュラーキャラ同士の成熟した掛けあいから鮮烈なギャグが生み出された。ここから18巻くらいまでは、浦安鉄筋家族のなかでも最も象徴的な時期で、224発目の国会議員の観覧車うんこネタ、236発目の春巻高速道路遭難ネタなど後世に語られる名作が多く生み出された。

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浦安鉄筋家族』16巻(秋田書店、1997、32頁)。伝説。「ウォルト!」叫び声も完璧。

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浦安鉄筋家族』17巻(秋田書店、1998、26〜27頁)。この話、オチも大好きだがこの辺りの春巻が高速道路での生活に順応していく過程がとても好きだ。

各レギュラーはそれぞれの守備範囲を構築し週刊連載を支える。小鉄はバカ・元気の度合いを深め、あかねはうんこキャラ・被害キャラを深化させ、仁は仁ママやフグオとよいタッグを組む。フグオは鉄板の食品ネタで作品に独自のアクセントを施す。春巻は完全にダメキャラとして自立し、それだけでギャグになるほどに成長する。これら各員に比するとのり子はやや特徴に欠けるかもしれないが、家ネタなど着実にキャラを定着させ、時に仁魚ネタなど快作を主導する。

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浦安鉄筋家族』17巻(秋田書店、1998、80〜81頁)。のり子の真面目さと元気さ、それが空回る面白さが遺憾無く発揮される話。オチに至るまでリズミカルな一本。

こうした浦安の象徴的時代は、子供たちの世界が中心になって推し進められた。すなわち小鉄軍団+春巻がギャグの渦の中心になった。主要キャラがしっかりと働く時期ではあるが、他方では連載初期に目論まれた家族同士のドタバタは後景に退く。14巻のあたりで大鉄・金鉄・順子にそれぞれ一話が与えられ、家族のキャラ付けに新たな道が模索された。この後大鉄は比較的早くに面倒くさがりキャラ、あるいは煙草キャラを深めて連載を支える。順子も比較的多く出番を得て、母親としてギャグもしっかりキャラも、そして格闘技もこなすプレーヤーとして歩みを進める。金鉄もじじいキャラあるいは小鉄に豆知識を伝えるトリッガー役を獲得する。一方桜は花丸木の出番が少なくなるにつれ、これに引き込まれるように出演機会を失う。晴男も発明ネタが若干あるものの、出番は多くない。

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浦安鉄筋家族』14巻(秋田書店、1997、86〜87頁)。家族キャラの掘り下げ。

連載初期を彩った色モノキャラもこの時期はいまだ健在で、成熟してきた小鉄軍団や家族たちとやり取りを繰り拡げる。

次回は、こうした黄金時代から安定期を迎える時期を見ていこう。