ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。桜井のりおは神。

【NOiSE 全話紹介&解説】 第五章 屍の暴走

死んだはずの裾野は、電脳空間で目覚める。これはセーフガードが裾野を自らの組織のエージェントとして迎えるため、裾野の意識を回収したもの。裾野にネットスフィアとセーフガード設立の趣旨が説明される。ネット接続権の無いものは積極的な排除がなされるとのこと。裾野はこうしたことに与することを拒絶するも、セーフガードは彼女に選択肢はないと言う。身体改造がなされた裾野に、電子界からクローサーが語りかけてくる。目覚めることができた裾野は、改造手術の場から脱出。同時に進行してきた珪素生物を圧倒して退ける。

 

ネットスフィア、セーフガード、珪素生物の微妙な関係が明らかにされる回。現在接続企業(プロバイダのようなもの?)は多くあるが、ネットスフィアがそれを統一すると言う。行政を担う統治局も、すでに業務の大部分がネットに依存しているから、ネットスフィアに深く依存せざるをえない。ネットスフィアの接続に関する見張り役がセーフガード。セーフガードはかなりの選民思想を持っており、ネット接続の無い者を積極的に排除すると言う。

・正義感にあふれる裾野はセーフガードの思想を拒絶。さて、セーフガードは何で裾野を起用しようと考えたのだろうか。今回、裾野に最新の改造が施されるわけだが、何で彼女なのだろうか。思考は洗脳を施されるのだから、組織の「はみ出し者」を候補にしたのだろうか。裾野は何者かによって市民権をはく奪されていた。これが良かったのかも。私は、市民権はく奪は教団の仕業と考えているけれども、裾野に改造を施すため、存在を消す目的でセーフガードの側が市民権を操作したのかも、と考えるとまた面白い。あるいは、裾野に何らかの適性があったのかもしれない。弐瓶氏の最新作『人形の国』では、正規の人形になるための適性がある。裾野にはそれに類する要素があったのかも。

・ともあれ、目覚めた裾野はしっかり自分の身体の特性を活かして珪素生物を退ける。

・裾野の変身能力。弐瓶氏はこの身体を覆うような変身技術が好みの様で、複数の作品に横断的に登場する。このあと、アバラでは那由多や駆動電次ら白ガウナが活躍するし、『バイオメガ』ではカーダルスピンダルがかっこよく敵幹部の威容を示す。さらに続く『シドニアの騎士』ではつむぎの変身なんかでこのパターンをお目に掛けることができるし、最新作『人形の国』では正規人形たちが変身して一瞬の活劇を繰り広げる。裾野はこれらの原型といっても良い記念するべきキャラクターだ。『アバラ』なんかは、無理やりに改造させられた者の悲哀みたいな点も『NOiSE』と被るところがある。


・さて霧亥の問題だ。なんとなく、この裾野のシチュエーションを見ると霧亥の組織への潜入や、記憶が希薄な点へのヒントになりそうだ。本考察でも以前にちょっと触れているけど改めて考えてみよう。裾野は頑丈な身体に改造され、洗脳されかけたところでクローサーの活躍で脱出した。裾野はもともと人間で、改造手術を受けた。霧亥は「セーフガード以前のシステムの密使」と作中言及がある。セーフガード以前、たとえば警察のような保安組織があって、そこから派遣されたのが霧亥なんだろう。セーフガードは作中で明示されるようにある種の危うさを孕んでおり、実際にその仕組みは宇宙に最悪の状況をつくり出してしまう。それ以前の保安組織から、セーフガードの暴走を内部から抑制・阻止するために霧亥が派遣された。『BLAME』という弐瓶氏のデビュー作には霧亥という名の警官がいるのも想起したい。さて霧亥もまた、裾野と同じように改造手術なりなんなりしてセーフガード入りを果たしたのだろう。密使としての活動はどこまで成功したのか解らない。霧亥の身体はどこかの段階でセーフガードの管理下から逃れて、あるいは何者かにより奪取されて、『BLAME!』の時代には犬女の一派により使役される。最終的に都市を放浪する裾野(寿命もなさそうだ)と同様に、霧亥も都市を彷徨うことになる。こんな感じで、裾野はセーフガード機構から脱出してみせ、それは霧亥の出自に何かヒントを与えている。


・如上の問題と絡んで、セーフガードの身体性について。生身を改造するのか、電磁的な存在が都度ダウンロードされるのか。『NOiSE』世界は、まだ物理的な社会だ。この話では、興味深いことにセーフガードの武装兵が登場する。『BLAME!』ではセーフガードといえば問題が起こった際に、都度ダウンロードされるシステムが常套になっている。『NOiSE』の時代では全然そんなことにななっていない。ネットへの接続も、インプラントで有線接続することが描写されており、また、先端技術として教団が盗んだダウンロード系の技術が示されている。裾野は改造人間になったわけだけど、データがネット上にあって都度ダウンロードされるような存在では、今のところは、ないだろう。仮面ライダーみたいな単発で強力なエージェントなわけだ。多分、システムの密使としてやってきた霧亥もそう。生身の存在がセーフガードの任に当たるのが『NOiSE』の時代。時は流れて『BLAME!』の時代に至るまでのどこかの段階で、ネットにこうしたエージェントたちの情報が(いくらか感情などの余計なデータは整理された上で)、電磁化されて、適切な場所にダウンロードする仕組みが一般化したのだろう。譬えると、私たちが最近音楽を購入する場合に、物理的なレコードやCDを買っていた時代から、ダウンロード購入に趨勢が移るようなものなのだろう。

・ということで、『BLAME!』のアンオフィシャルメガストラクチャーの内部あるいはその近傍にセーフガードの物理的な武器庫が存在し、霧亥がそれを使用しえたことは、意外にも彼らの出自を考える上で重要なのだ。化石的な設備が何かの拍子で生成されることもあるのだろう。