ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。桜井のりおは神。

【BLAME! 全話紹介&解説】LOG57 観測者

霧亥とモリは3000キロメートル距離の円柱状構造内部の階段を上りきり、広い真っ暗な空間に到達する。そこには、空間を観測する珪素生物がいる。空間の中心には塔がありセーフガードがいると、珪素生物は語る。珪素生物に恨みがある霧亥は観測者珪素生物を殺害し、空間の中心部に歩みを進める。

 

・この話めっちゃ好き。ストーリーと無関係に、都市空間の探索の楽しみのようなものが凝縮された話だと思う。長い旅をしている霧亥は、こんな体験を日夜していたんだろうと想像させられる。

 

・さて、みんな大好きだと思う。3000キロメートルの円筒状の構造体。螺旋階段が延々続く。

・まず言えることは、これは異常な構造体だということ。螺旋階段は構造として全く異常ではない。しかし、それが3000キロ続くのは異常なことだ。人間は3000キロも螺旋階段で移動しない。作中にはモノレールやエレベーターのような仕組みが登場する。長距離を移動するならば、幾らでもそうした手段がある。螺旋階段でその距離を移動するのはおかしい。明らかに人間の作為の埒外にある。この螺旋階段の描写はカッコいいけれど、都市のアンコントロールな状態を端的に示すちょっと怖い描写でもある。

・しかし一方で、この直線状の構造体は移動に便利。無秩序に構築された都市の中を直線に貫く。非常識な螺旋階段は逆に移動に効果がある。真っすぐ所定の方向に3000キロ進めるわけだ。

 

・霧亥の機体の優秀さを示す視覚の望遠機能。モリも驚いています。モリが霧亥の身体を乗っ取ろうとした一つの理由も、そんな優秀さを感じ取ったところにあるのだろう。

・しかし、モリは霧亥のヤバい感じも同時に感じていたのかも。まず、霧亥はとんでもない回廊を平気で登り始める。このペースで登って行ったらどれくらい時間かかるか、モリならばすぐ解るはずだ。霧亥って空飛べないし高速移動ができない。珪素生物でも人間(シボ)でも飛べるやつはいるのに。歩きで階段登って行く。モリにとってはちょっとそこが怖いところでもある。

・またより直接的には、長い間霧亥が眠いっていた描写がある。はっきりここでは描かれていないけれど、例のピンをぶっ刺して霧亥はぐーぐー寝ていたんだろう。彼らにとっての「長い」がどれくらいかは判然としないが、霧亥が全然動かないので、モリは折角出会った「人格」が外れだったのではと感じていたのかも。

 

・ということで、モリは霧亥の身体の乗っ取りを計る。

・ここのモリの台詞は様々な憶測を生んでいる。まずモリにはいくつかの人格が立ち現れているのではないか? という想像。モリの口調が幾人かが代わる代わる霧亥に話しかけているようにも読めるのだ。さらには、ここだけモリは「僕」の一人称を用いる。この辺り、モリはどうも怪しい。こうした推測は、後に緊急保存パックに幾つもの人格が上書きされていることがわかり、裏付けになる。ちょっとこれ以上は証拠を見つけられないので、こうした可能性を指摘するにとどめよう。俺はただモリが割と小心でそわそわしていたんじゃないかと思っている。

・霧亥の身体の設計が何世代目か、規格はあるか、を尋ねるモリ。霧亥の身体がサイボーグであるということを見抜いている? あるいはモリのいた社会ではサイボーグ化するのが当たり前だった? 実際に霧亥は合致する穴を持っているようだ。最近俺はUSBじゃない穴が増えたなあと感じている。未来でもそうした穴が合わないことがあるのだろう。こういうことがわかるモリは、相当古い時代の人格なのか、あるいは塊都の住民のような科学が進んだ地域に住んでいたのだろう。

・ともあれモリの身体への希求がわかるシーン。とっても人間臭い振る舞い。伊達にサイバーダンジョンを探索しているだけのことはある。

 

・モリの乗っ取り未遂に対する霧亥の判断。どうして霧亥はピンだけ捨てて、モリを破棄しなかったのだろうか。モリの中身が出ないようにグルグル巻きにしながらも、依然旅のお供として持ち歩く。ここからも、やはりモリは自分を持ち歩いていた方がいい相当なメリットを霧亥に示していたと思う。一つの仮説として、緊急保存パックに最初に保存されていた女の子の存在がある。詳しくは最終話からいっこ前で語るとして、彼女は統治局により人格が回収されたわけで、ほぼ確実にネット端末遺伝子を持った存在と言える。モリは、緊急保存パックの中の古い人格データについて霧亥に話したのではないか。もしそうならば、セウの遺伝子に匹敵する存在だ。こんな感じで、口の達者なモリが霧亥に運んでもらう口実を持っていたと想像している。

 

・出口のところの梯子。設計者(建設者?)のセンスが光る。

 

・出たところ。いやに古い、マンションのような構造体だ。

 

・さてやってきましたよ巨大な空間! 広いなぁ!!! そして黒ぉい!!

・この巨大な暗黒空間は、この後の観測者の解説により直径が判明する。だいたい木星と同じ体積となる。同じく観測者の解説によれば、ここは都市の材料の供給源になっていた。ということで、恐らくここには木星があって、ガスなどの木星の構成成分は都市の材料として使用されつくした結果、空閑地となっているのだろう。

・このあと霧亥が登る中央の塔は、惑星を貫いていたことになる。自転などの惑星の活動をコントロールしながらその成分を採集するための巨大な装置と考えられる。

・この空間はいろいろ問題がある。木星大の球形の空間が広がっている。大気の重さが大変なことになりそうなのだが、そんな描写はなく、霧亥も平然としている。都市の内部は重力が一定に保たれているのはもちろん、気圧もだいたい1気圧に保たれているのだろう。そんなコントロールも、中央の塔が担っているに相違ない。

・空間はかつての木星表面にそってわずかに撓んでいるはずだ。当然そんな僅かな撓みは作中に表現されないが、僅かに撓んでいるはずだ。観測者なんかはそうした木星跡地の局面に魅かれてこの空間を観察しているんじゃないだろうか。他に、都市にこんな空間はないはず。土星とかまで都市が広がっていたら例外もあるだろうが、宇宙空間にこういう構造を都市が残すのは相当珍しいはず。観測者の研究魂に火が付くのもうなずける。

 

・物語の骨子においても、この木星跡地は問題を孕んでいる。『NOiSE』では、珪素生物の早い世代が都市を暴走させた描写がある。裾野結の奮闘むなしく、都市は拡大し、月を取り込んだ描写がある。そこから数千年経った『BLAME!』の作品世界では、暴走した都市が木星軌道までたどり着いたことがわかる。まさか直線で都市が木星を目指したわけではないだろう。都市の拡大は無秩序のはず。地球を基点に、アメーバ状に都市が広がっていることだろう。木星は始めから都市に取りこまれていたわけではない。きっと、成分を採集するための中央の塔は古い時代からあった。宇宙空間で木星を貫いていた。都市があとから追いついた。都市が膨張する前の古い時代から木星空間で成分を採集していたので、セーフガードは警備するけど都市空間はそこには手を出せない。ある種東亜重工のような、治外法権的な空間なのではなかろうか。だからまるっと残っているし、太古の構造があるからこそ観測者もここが気になっている。

・巨大な生産設備や建設者も、太古から木星からの成分採集に活動していたのだろう。

 

・観測者。まず言いたい事はだ。霧亥。お前ネットで珪素生物絶対殺すマンって言われてるぞ……。珪素生物に強い恨みがあることはわかるし、シボを失った悲しみもまたあるのだろう。非武装珪素生物でも殺す、という霧亥の基準が明らかになる重要な描写だ。しかも、俺いっつも気になっているんだけど、『BLAME! 2』で霧亥珪素生物助けてるじゃん! 髪がふわふわのかわいい女の子の珪素生物だったら助けちゃうのかなあ!? このスケベ! 霧亥が『ブラム学園!』などでむっつりスケベに描かれるのはこんな辺りに淵源があるのかもしれない。地味に俺は霧亥のこういうところがちょっと気になっている。

・ちょっとふざけて書いてしまった。詳しくは『BLAME! 2』の時に書くけど、続編のころは、珪素生物に対する認識がガラッと変わるくらいに、霧亥に何か大きな出来事があった後なのだろうと思う。

・さて話を元に戻す。観測者は珪素生物なんだから、霧亥のことを知っていてもおかしくない。しかし、霧亥が現れて気にするそぶりはない。霧亥のことを知らない珪素生物なのかもしれないし、観測が第一だから誰が来ようと気にしないタイプなのかも。観測の邪魔だからどっかいってくれ、なって言っちゃう辺りからもそんなことがうかがえる。

・ここにシボがいたらなあ。

 

・観察者を殺した時のモリの反応。なんてことするんだ……。モリの常識人としての性質が垣間見える描写。ここにもいろんな可能性がある。モリが珪素生物を知らないほどの古い世代の人だと言うこと? どうだろうか? たぶん違う。都市世界を旅するほどのモリなのだから珪素生物を知っているほうが自然だろう。珪素生物自体も、相当古い時代からいたようだし。

・ということで可能性2。緊急保存パックに、人間か珪素基系なのかを判断するアプリケーションがない。この方が現実的だ。モリは放射計で都市空間を認知している。蝙蝠みたいに波を出してその反射から構造物を捉えているのだろう。木星にたどり着いたときには、地面以外からの反応がなくなる。モリにとってはこんなことは初めてなのだろう。常に密集する都市空間に囲まれていたわけだから。さて、だからモリは珪素生物でも人間型の霧亥でも大体おんなじような形状としか認識できないのではなかろうか。

・でもそれじゃあ、モリは珪素生物に拾われる可能性も出てきてしまう。人間か珪素生物か、くらいは区別できるのだろうか。あるいは、人間と珪素生物が共存している世界出身なのかもしれない。色々考えたが解らんものは解らん。ここでは、非攻撃的な存在に対して一方的に殺戮することをとがめる感性を持っている、という指摘以上はできない。

 

・妄想だけど、観測者は観測者なわけで、データのバックアップどこかに取っているのかもしれない。俺このキャラめちゃくちゃ好きだ。ヨシオの次に好きだ。だからまた元気に木星を観測していてほしい。