ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。桜井のりおは神。

【BLAME! 全話紹介&解説】LOG56 人々

触手がもこもこした珪素生物を霧亥が倒す。都市をさらに進む霧亥は、緊急保存パックに記録された人格に出会う。改造された建設者がいる都市の一角を探索する。

 

・ここから数話は出格の面白さ。作品世界も円熟し、ラストのストーリー展開の一歩手前。霧亥の旅が淡々と描かれる。『BLAME!』世界をじっくり堪能できる。

 

珪素生物との戦闘。都市の巨大さを遠景から描写しながら戦闘シーンに入る。改めて圧巻である。この辺り改めてじっくり読むと距離感の描き方がとっても好ましい。

・モコモコ珪素生物。飛行形態と触手状の射出機。バイオ系の武装具なのだろう。ブロンと近いようで、身体を直に改造する手法ではない。珪素生物にも色んな武装があるのだろう。霧亥はもちろん倒しちゃうんだけど、ここでは珪素生物は一体しか描かれない。大抵の場合珪素生物はペアで行動するから、知られざるパートナーがいたのではないかと思っている。

珪素生物に止めを刺した武器。これこのあともちょっと活躍の機会がある。割かし強い武器なんだけど、霧亥はサブウエポンとして近接戦闘に使用しているようだ。確かに重力子放射線射出装置はバカスカ打ったら階層がめちゃくちゃになって移動も戦闘も面倒だ。こういう武器はどこで手に入れたんだろうか。難しい問題だ。以前霧亥は、アンオフィシャルな階層(の付近)においてセーフガードの武器庫から武器を得たことがある。そうした場所が都市には散在しているのだろうか。電力の回復もそうだが、なんらかの都市への検索機能を、霧亥は有しているのだろう。

 

・霧亥は都市のあまり移動に適さないところもガシガシ進んでいく印象がある。通路や階段では無いところ。一体都市には、移動に適した部分とそうでない部分とがどのような割合で存在しているのだろうか。普段、現実世界の都市を見ていると、意外に自分たちが移動する以外の空間があるのだと気づかされることがある。無秩序に広まった漫画の都市空間も、普通に歩けるところは存外に割合が少ないのかもしれない。

 

・そんな都市の一角で、霧亥は緊急保存パックに記録された人格に会う。名前は不明だが、ネット界隈では緊急保存パックのメーカー名が通称になっている。本稿でもそれにならって彼をモリと呼ぼう。モリは、作品の後半を彩る重要なキャラクターだ。シボなきあとの霧亥のパートナー。彼がいるおかげで私たちは物語にグッと接近することができる。

・緊急保存パックとモリ。詳しくは追々語るとして、それぞれ相当古いデバイス・人格なんだと思う。モリは古いデバイスを駆使して(他にも色々装備はあっただろう)、都市を探索していた。何か事故があって、長い間休眠状態にあった。モリの肉体は脚が欠損して、ミイラ化しているような描写。シボと霧亥との出会いのシーンを想起させる。この時代の人は精神を肉体から抽出するのは難の無いことなのだろう。そして、彼にも何らかの物語があったのだろう。

・霧亥は一旦モリを置いて去ろうとする。モリは当然呼びとめる。結局霧亥はモリを連れていくことに。この辺りの霧亥、ちょっとコントみたいで面白い。真面目な見方をしたら、何らかの交渉事があって、たとえばモリが「自分はこんなことができるから探索や生存に有利だ」などの提示があったのかもしれない。ナイーブな見方をするなら、シボを助けられなかった霧亥が、他の人を助けようとしたのかもしれない。まぁもともと霧亥は、電基漁師の村の人への描写を見るに結構人助けに積極的な方だ。だからモリを連れていくのに心理的な障壁は少ないのかも。だったら余計に、一旦置いて去ろうとするところがちょっとコミカルに見える。

 

・新たなパートナーになったモリは、早速霧亥に探索のヒントを与える。あるところで、目のフィルターを替えるようアドバイスする。都市を探索するだけあって、色んな感覚器を持っているのだろう。霧亥だけが、ことさら秀でているわけではない。良いデバイスを持っている存在はいる。それだけ、都市が拡大してから長い時間が経った。珪素生物含めて、人類はそのなかで進化してきた。

・霧亥の胸の部分の四角いディスプレイのようなデバイスが、ラジオのような音を立てて反応している。前に議論に挙げたけど、霧亥は無計画に都市を探索している訳ではなさそうだ。ちゃんと並列蓄電装置も見付けるし、シボを助けた建設者にも出会っている。霧亥のこの胸のデバイスなんかが、探索の手助けになっているに違いない。

 

・特殊な空間。改造された建設者がいる。それを説明するのは語り手に早速躍り出たモリの役目。ただし、霧亥は気づいていたかもね。霧亥は寡黙過ぎて説明しないので、モリがいて助かりますよ、ほんとに。

・この空間の描き方は大変挑戦的で、少し傾けたような都市空間を描写している。ここを作った人物の趣味なんだろうが、今まで、大抵の場合、(斜めの構造体があっても基本的には)鉛直・水平を基軸に建物を描いていたので、ここは見ていて面白い。

・改造された建設者。詳しくは語られないが、ここを作った人間は何かお手伝いや話し相手としていたのだろうか。こういう技術が成熟していたわけだ。


・空間の主。死んでます。直前の案内する建設者めっちゃ好き。指差して案内するシーンがとても好きだ。空間の主は、何か接続機を駆使している様子。生きている時には種々の実験やら何やらをしていたのだろう。ネット端末遺伝子はなし。ネットに接続しようとしていたのかもしれないし、霧亥とは全く異なる目的で活動していたのかもしれない。とにかく、都市には色んな事をしている、あるいはしていた人がたくさんいるわけだ。

・いつも思うんだが、この空間の主にも、モリみたいに緊急保存されたデータがどこかにあるんじゃないかと感じてしまう。これだけ何か実験してそうなキャラなんだから、人格をどこかに保存していてもおかしくはないと思う。あるいは基底現実にはそういう人格データはなく、何らかの電脳空間に移動したから霧亥も回収できなかったのかも。


・最後のモリの台詞。「ここの建設者達はあいつが造り変えたのかもしれないな……」。これいいよなぁ。全然言わなくていい台詞なんだけど、殺風景な都市には必ずしも必要な台詞ではないんだけど、そして霧亥が返事するとは思えないんだけど、モリは敢えて言う。モリの憎めないところはこういうところ。ちょっと読者をほっとさせるような、読者側の視線の代弁者になっている。ながらくこれはシボの役割だったわけだが、モリはさっと登場してそれをやってのける。モリってこういうシボっぽい役割があるところが好ましい。内実を見ると結構違う部分がるんだけどさ、持たされた役割が似ている。