ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書き終え、現在は浦安鉄筋家族について書いてます。桜井のりおは神。

【BLAME! 全話紹介&解説】LOG40 捕獲

ブロンの攻撃で意識を失っていたシボ。ドモ&イコが手術して保護していた。意識を恢復したシボは、ドモチェフスキーやイコが臨時のセーフガードであることを知る。そして、持っていたセウの遺伝子が、ドモチェフスキーに奪われていたことも把握する。シボはイコから事情を聴いたようで、ドモからセウの遺伝子を奪回して2人の臨時セーフガードからから逃れる。

 

・前回とこの回は、イコがいるおかげでめちゃくちゃ作品世界への理解が深まる。妄想のし甲斐があるというものだ。

・摘出手術を受け、意識を回復するシボ。なんかかっこいいところに寝かされている。ここ、都市が充満した世界の中でもちょっと外と雰囲気違う静かな場所で、好きだ。シボにブランケットがかけられている。ドモチェフスキーがそうした? 人間を保護するセーフガードの「人間らしさ」を感じる描写。後から述べるけど、シボは高度に電装化されているんだからブランケットなんていらないわけだ。でもシボにそれを掛けるセーフガード。人間を守るセーフガード元来の姿勢がかいま見える一方、その恩恵を受けるべき人間は、既に高度に電装していて、実はその必要が無い。臨時セーフガードの2人は、人間(といってもシボに限定されるが)のポテンシャルを甘く見積もっている。ただ守るべき弱者、という認識。その誤解が、シボの脱出を可能にしている。

シーラカンス。これなーー。ドモチェフスキーの回想と、画集の説明において、このシーラカンスの由来が示される。セーフガードの仲間として造成されかけて、珪素生物の妨害に遭いシーラカンスとして生まれた。詳しくはドモの回想シーンで述べるとして、ここではシボがこれを見ていることに注目したい。シボ、魚を見た事あるんだろうか。塊都にはムカデみたいなのがいた。シボのミイラ化した身体を這っていた。他にも、都市世界に順応した生物が多少あることが作品から垣間見える。魚はいるのかな? わからないけれど、ドキドキする描写だ。遠未来に生きる学者さんのシボが、私たちの時代からしても古代から生きているシーラカンスを見ている。シボは時間をかけてシーラカンスを見ているようだ。彼女にとっても珍しい存在なのだろうと思う。

 

・ドモ&イコの会話① イコはカプセルだけ回収してシボを階層の外へ出すべきと意見する。一方ドモは、シボは人間だから珪素生物から守らなくてはならないと言う。まず、さっきも言った通り、人間を守ろうとするドモ、そしてその見積もりが甘く、シボは人間だけれどかなり高度に電装化して珪素生物にも引けを取らない所があるところは触れておこう。イコは、セーフガードである2人のことを優先しているようだ。

・ドモ&イコの会話② 珪素生物を倒して階層が安全になるまでシボを保護すると言うドモ。それが難しいというイコ。身を守るだけでやっとの状態だと言う。彼らは珪素生物に対してほとんど何も出来ていない状態のようだ。

・ドモ&イコの会話③ 重力子放射線射出装置について。ドモは使う気満々。珪素生物を容易に倒せるだろうから。イコはこれに反対。「永久に公式の存在になれなくなる」という。ここも示唆に富む描写だ。公式の存在になる、とはどういうことだろうか。正式にセーフガードとして登録されて、恒久的にデータが保存され、(ある程度)連続した意識を持ち、任務を帯びて基底現実のいろんなところにダウンロードされうる、そんな存在だろうか。サナカンなんかはそんな正式なセーフガードなんだろう。重力子放射線射出装置は、きっと放てる者に制限がある。臨時セーフガードは使っちゃダメ。規則違反になって、正式なセーフガードになれない。イコはこのことをすごく気にしているようだけれど、ドモは珪素生物の排除が主眼にある。だから使ってもいいだろう、任務が達成できればそれでいい、と考えている。

 

・シボとドモイコの会話① 2人がセーフガードだと解り驚くシボ。当たり前だ。これに対して、イコはネット端末遺伝子の有無に関係なく保護対象だと述べる。そんなことあり得るのか。多分、ネットスフィアが正常に機能していた時代、新たに都市階層の区画の拡大事業があっただろう。超構造体の拡張工事。新たに都市になる空間には、いろんな勢力があるだろう。カオスに殉教した珪素生物もいるだろうし、ネット端末遺伝子を持ち新たな都市区画の造成を待つ人もいるだろう。さらに、ネット端末遺伝子のない人間も住んでいたりするだろう。遺伝子のない人間は、その区画から逃れるか、遺伝子を得るか、ひっそりと都市に潜むか、あるいは珪素生物になるか……いろいろ可能性はあるが、そのままでは暮らせない。だけれど、階層が完成するまでにはある程度時間の猶予がある。臨時セーフガードはそんな環境に派遣されるセーフガードで、珪素生物から人間を守り、階層の工事が完了した場合、遺伝子のない人間も排除する動きになる。臨時セーフガードは正式にセーフガードになる。こんな感じだろうか。

・シボとドモイコの会話② 珪素生物から守るために、シボを保護したことが明らかになる。そして、セウの遺伝子はドモチェフスキーが持つ。霧亥の所在について、ドモチェフスキーが嘘をつき、それをイコが咎める。ここを見るにセーフガードは人間に対して正直でなくてはならない。一方、セーフガードにも柔軟性があって、必要と判断すれば嘘だって付く。非常に「人間らしい」振る舞いで、守る対象である人間に対する柔軟性を臨時セーフガードは帯びている。

・シボとドモイコの会話③ ちゃんと説明しないドモ。その場から去っていく。この時、イコが普段の可愛いインターフェイスじゃなくなって、目の中が黒くなる珍しい描写がある。これずっと訳が解らなかったんだけど、あえて解釈してみよう。このあとシボは、着せられているセーフガードのスーツの機能を利用して、ドモチェフスキーから遺伝子を奪還する。これ、イコはある程度そうなるように仕組んでいたんじゃないだろーか。つまり、イコはシボのポテンシャルに気付いていた。シボがスーツの機能で通信を聴けること、スーツを使って逃げること。イコはドモに内緒で、そういう風になるよう振る舞っていた。イコは人間に対して正直であることにかなりの重きを置いている。遺伝子はシボが持つべきと思ったのかもしれない。また、臨時セーフガードの企図をただしく開示する必要も感じていたのかもしれない。シボに通信を聴かせることで、シボに対して「正直」になる。イコはイコなりに、ドモに対して「嘘」をついているのかもしれない。

 

・思うにイコは「嘘」は言わない。のだけれど、ギリギリで嘘を言わないに過ぎない。イコは珪素生物にシボが襲われていた、と述べた。たしかにそうなんだが、そのあと霧亥が珪素生物を倒したこと、ドモと戦ったことには一切触れない。ドモよりも「嘘つき」なのはイコなのかも。いずれにせよ、この2人はとっても「人間臭い」。
・シボがセーフガードのスーツを活用できるのは、東亜重工編で霧亥と通信したからだろうか。あるいはサナカンと共存していたからかもしれない。

 

・シボと格闘したり、追いかけるドモ。この辺り、かなりコミカルに描かれている。作中初めてのことだろう。今に至るまでドモが3枚目的な立場で描かれるのも、こんな描写が源になっている。これまでセーフガードと言えば駆除系やらサナカンやら無機質な連中ばかりで(サナカンはこの後があるが)、そんなセーフガードがコミカルに動く。弐瓶氏の「一筋縄ではいかせないぞ」という矜持とも読める箇所で面白い。