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ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。

作画:伊藤悠、原作:佐藤大輔 『皇国の守護者』

長らく人に貸していたこの漫画。そのことすら忘れていたが、とある機会に帰ってきたので読み返してみた。感想を書いてみよう。

 

もうこの漫画というか原作の小説はね。すごいね。架空戦記物で登場したら盛り上がるキャラや展開がもうほとんどこれでもかこれでもかといわんばかりに詰め込まれている。

 

皇国の守護者 (1) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

皇国の守護者 (1) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

 

智謀が働く主人公に無能な上司にそれぞれ個性的な部下、そして敵の姫将軍。しかもこの姫将軍は小説の後半では味方になっちゃう。姫将軍には当然お付きのじいやが居る。幼馴染がいて、その娘がいて…。龍がいて、日本ぽい国がロシアぽい国に攻められる。どこかの時代、どこかの国かと、読者は自然に想像できる。そしてそこから緻密な戦記、戦誌が紡がれる。加えて主人公の智謀やそれに基づく判断や苦悩が上手に上手に描かれる。本来個人の力ではどうにもできない戦争のダイナミズムが、巧みに主人公の判断にゆだねられる。こうした書き方・バランス感覚は、実は現代日本の漫画家にはなかなか難しい。練達の小説家佐藤大輔の面目躍如極まれり。そしてこうした重厚な戦記に対して漫画的表現で応じたのが伊藤悠であった。

 

最終的にはこの漫画の連載は頓挫してしまうのはよく知られている。今から思うと、この作品の漫画化は、恐らく今後もう実現し得ないような奇跡のようなマッチングだった。ボードゲーム畑出身の経験豊富な小説家による原作と気鋭の漫画家のマッチング。もう今後、架空戦記物でここまで濃密で、かつ漫画として面白い作品は現れないのではないか。そう思わせる出来だった。

 

そして「萌え」全盛期にこのような重厚な要素を下敷きに漫画が描かれたことは記憶しておくべきだ。私たちは萌え萌えしている間に、こうした漫画をロストテクノロジー化してしまっていないだろうか? 浅薄な戦記物、浅薄な戦争、浅薄な政治ごっこしか描けなくor読めなくなってはいないだろうか? 2010年代も半ばに差し掛かり、もう10年ほど前になる漫画作品から、ちょびっとだけそう思うのである。