『シドニアの騎士』12巻の感想
本作では、弐瓶勉お得意のSF的身体が数多く登場する。人工的に成長させたクローンや人類と敵との融合個体や、性別が中間の者、アンドロイドみたいなのとか、まぁたくさん出てくる。
さて本巻では敵であるガウナに取り込まれたにもかかわらず、人間としての自我を高く持ちながらガウナにコピーされた個体が登場する。これは一見すると先の段落で書いた様々なSF的身体と相違ない存在なのだ。主人公長道の構成するハーレムに参加してもおかしくない。だが他の個体と違い、人類の側に排除される結果になる。
本巻で見れて良かったのはこの点だ。作中には様々なSF的身体を持つ個体が登場するけど、それらはOKで、だが一方敵のコピーは決して決して許されない。それがシドニアの社会なのだ。作中の人々の倫理感をエッジの効いた表現で見ることができた。この差異は、必ずラストに向けての重要な要素になって行くだろうと思う。
こうした厳然とした作中の世界観が示される一方で、賑やかなキャラクターたちの穏やかなやり取りもまた描かれたのが本巻だ。おそらくこれはアニメ化を控えての戦略であろう。厳しいSF世界が多く描かれる弐瓶作品でそうしたものを見られるのは幸せなことだ。そしてそうした中で、先述した厳しさも失われていないことも確認できるのもまた僥倖なることなのだ。