ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。

TISTA

カッコいい戦う女の子を描かせたら当世随一、遠藤達哉氏による作品。凄腕の少女スナイパーの活躍と、それに比例して増大していく自己の葛藤とを描く漫画だ。

 

TISTA 1 (ジャンプコミックス)

TISTA 1 (ジャンプコミックス)

 
TISTA 2 (ジャンプコミックス)

TISTA 2 (ジャンプコミックス)

 

1995年くらいから、自意識を前面に押し出す描写を伴う内省的な主人公が増えたことは、今更多く言葉を重ねずとも良いだろう。そうした主人公は時を経て21世紀初頭2000年代中後半あたりまでは比較的よく見られる類型だった。最近はどうだろうか。そうした内省・自意識が退潮し、そこには「萌え」が残っているといった感じだろうか。今の主人公はそんなに自分のことで悩まない。自分の自意識のことで一話を費やさない。多分ね。

 

ところがどっこいこの漫画の主人公のティスタちゃんは最初から最後まで悩みまくりだ。悩みが深まると同時に眼にもダメージが現れるあたり、丁寧(かつ深刻でラディカルな)な悩みのあり方をしており、テーマをより明確にしている。

 

重要なのは、内省一人語り主人公のティスタが女の子だということだ。自意識の葛藤で悩むのは漫画の世界においては普通は男の子だ(フェミニズム的見地から怒られそうだからちゃんと書いておくけど現実世界では誰でも悩むぞ。ただ漫画では悩むのは男の子なのだ。これにはきっと近代の男女のあり様が重く重く影響を与えているのだろうが、ここでは詳述しないしそんな力量もない)。でもここでは女の子が徹底して自意識を提示する。まずこの構造は珍しい。

 

でだ。次のステップ。作者の遠藤氏はかっこいい女の子を描くのが大得意だ。きっとそういうキャラに興味関心、情熱があるのだろう。そうした人物を大いに悩ませる。ちょっとここが違うとこの記事は無かったことになるが、遠藤氏が男だとして、そうした彼が女の子を主人公に据えて内省を描く。これは男主人公が悩むのとは一捻り分次元を異にした世界だ。内省型主人公の変奏とでもいう感じだろうか。

 

ティスタはその点本当に徹底していて、例えば女の子だけどほとんど手や足を露出しない。女の子キャラが主人公でもヒロインでも課されがちな「露出」の役割はほとんどティスタには無縁だ。そうしたありがちな役割からは徹底して退けられ、悩みに悩みまくることに専心する構造が用意されている。肌の露出ではなく、思考の臓物を彼女は提示するわけだ。

 

この作品はちょっと最後は暗いお話になってしまう。彼女が一人で悩みまくって、一人の男の子をようやく助ける。内省の答えを一人の異性に求めるってのは、こうした主人公の常套的決断だろう。彼女も多くの内省型主人公と同じ歩みを経て、最後にはその罪を被ることになる。

 

重い話だし、2巻という容量で語りたかったことをすべて語れなかったのかもしれない。でも彼女は、物語の構造上課された役割をしっかり果たした。彼女は物語中での任務のように、メタな構造上の役割もしっかりこなした。すなわち遠藤氏は筋を通して描き切ったのだ。途中で普通の「女の子」になるような(水着回をやるような)日和は見せなかった。ここら辺、見ていて慄然となるほど本当にしっかりして徹底した漫画だ。