ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書き終え、現在は浦安鉄筋家族について書いてます。桜井のりおは神。

【ゾロリ2】かいけつゾロリのきょうふのやかた

ゾロリの感想を書くぞ。ゾロリシリーズ第二段は「かいけつぞろりのきょうふのやかた」というタイトルで刊行された。

 

内容を見ていこう。ある日ゾロリは「おおかみ男」「ドラキュラ」「ゴーゴン」「ミイラ男」と出会う。彼ら四体の妖怪は人から軽んぜられており、妖怪の本職である人を怖がらせることができないと悩んでいる。そこで、いたずらの妙手を標榜するゾロリが彼らを助け人々を怖がらせようとする。さらにはゾロリ自身もそうした妖怪に扮していたずらを敢行するのだが・・・。

 

 

本作で注目したい点は「お約束」だ。

 

作品中盤に、ゾロリが四体の妖怪に順繰りに変身し、それぞれ驚かすことに失敗する場面がある。まず「ドラキュラ」に扮したゾロリは中華料理屋を襲撃しようとするが、中華料理に含まれるニンニクによりあえなく撃退される。次にゴーゴンに変身したゾロリは美容室でパーマをあてられ、蛇の髪を加熱しダメしにしまう。そしてそれを確認しようとして自分で自分を鏡で見てしまい石化する。こののち残りの二体の妖怪に扮するもいずれも失敗する。

 

物語の読解になれた人であれば(ゾロリの読解になれた読者ってのは何者なんだ、という話ではあるが・・・)、二体目か三体目かの妖怪の時点で、ゾロリの作戦はいずれも失敗する運命にある「お約束」だとわかるだろう。後半の変身も、多分うまくいかないだろうな、と。

 

この「お約束」は本来伏流水のように見えない暗黙のルール・暗黙の流れ的なものだ。だが現代では「死亡フラグ」みたいに読者の側がそれを指摘し、顕在化することがままある。こうして、「お約束」ってのはワンパターンな表現・陳腐な流れと捉えられ、ある種バカにされる風潮が生まれてしまっている。

 

でも「お約束」を講ずることは本当は大事だと思うぞ。これがあるから私たちはテキストをすんなりと消化できる。こういう調理の過程がないと、テキストは重くなる。腹を下して下痢をしてしまう(きたねー譬えだな)。『水戸黄門』的文脈は脳みそに優しいのだ。脳みそが下痢をしてしまう作品は、面白くはあるが他方身体に悪い。

 

こうした「ルールのリズム作り」、言いかえれば、作中における文章・絵以外の「言語」を優しく提示するのがゾロリの特長だと感ずる。作中の展開に限らず、作品総体の流れ(ゾロリがいたずらしようとして失敗する)という流れもわかりやすい。次どうなるのか?という問い。幼い読者であっては、はじめてだともしかしたらわからないかもしれない。けれど何度か繰り返し読んでもらうことで、物語の構成自体の持つ「言語」を必ずや体得できるだろう。そこがゾロリのいいところ。シリーズがたくさんあるのも良い。多くの物語があることで、ゾロリ世界のルールがより把握しやすくなっている。

 

ゾロリが失敗しつつ去っていくのはウィトゲンシュタイン的教育だ。