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ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。

斉木楠雄のΨ難

今ジャンプで読むべきはこれ。まさにこれ。

 

主人公斉木楠雄は万能の超能力者で、超能力を使役してあらゆる漫画でありがちな「お約束」を面白おかしく打破しギャグにする。斉木以外の登場人物もみな個性的で「濃い」連中で、一見すると無敵に見える斉木の日常生活を様々なあり方でかき乱し、それもまたギャグにする。

 

斉木楠雄のサイ難 1 (ジャンプコミックス)

斉木楠雄のサイ難 1 (ジャンプコミックス)

 
斉木楠雄のサイ難 4 (ジャンプコミックス)

斉木楠雄のサイ難 4 (ジャンプコミックス)

 

ジャンプで仕事する堅牢なギャグ漫画

漫画のお約束をギャグにするのだから、ネタはそこかしこに転がっている。というか雑誌で連載してるんだからすぐそこにネタにすべき漫画の常識が漂っている。そして、超能力をほとんど際限なく自在に豪快に用いる点からも爽快な笑いが生まれる。戦う土俵も用いる戦術もどちらもギャグにするには格好のもので、ここに麻生と編集部の計算されつくした戦略性が垣間見えよう!垣間見えよう!

 

この漫画を見るにつれ、巨人軍で長く中継ぎとして活躍した角盈男を思い出す。角は中継ぎという役割を確実にこなすチームに欠かせない存在だった。この漫画も、必殺仕事人というような感じでジャンプの漫画の一角を担い、確実に求められる仕事をこなす。堅調に面白いのだ。調子が良ければ最高に面白いし、不調であってもある程度のところまで面白い。こうした漫画は目立たないけど雑誌連載に欠かせない漫画だ。

 

 2000年代後半から2010年くらいまでのジャンプにおいて、しょうもないギャグ漫画が生まれは消えしていた時期があった。これは澤井敬夫が『チャゲチャ』を8週で打ち切られたあたりで確かピークを迎えるが、『斉木楠雄のΨ難』作者麻生周一はこうしたギャグ漫画日照りのなかから立ち現われ、休載漫画の代原をそつなくこなすいわば「たたき上げ」的地位からのし上がってきた。そうして描かれる漫画はハイアベレージに面白く、笑いへの構成も先ほど見たように堅牢で、現在麻生の才能の面目躍如たる状況になっている。こうした実力がありかつ堅調な構成をもつ漫画は美しいものだ。ハイレベルを目の当たりにして思わず嬉しくなる。

 

ギャグ漫画の大きなパラダイムの中で

ところで、麻生の前前作『ぼくのわたしの勇者学』は、主人公の教師鋼野剣は、勇者の格好をしていた。通常の世界に、ありえない装飾、ありえない言動をもたらし周囲を混乱させギャグにしていた。

 

こうした主人公の在り方は、うすた京介セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』が切り拓いた地平だ。ちゃんと書くぞ。ほとんど死に物狂いで切り拓いた地平だ。これ大事なこと。

 

マサルさんの肩のあれは普通の人間はしてないし、セクシーコマンドーという捻じれた「X」を配置し、それに伴う架空の言語、独創的な思考、そして奇抜な行動を弄してギャグにする。現実を脱臼させたのだ。こうして、明らかにうすた以降にギャグ漫画に新たなパラダイムが生まれた。そして見かけ上簡単に見えるこのスタイルは多くの追従者を産んだ。このことは、まぁ、よく言われることだろう。『勇者学』もうすたを産んだジャンプというお膝元でそうしたあり方を採用していた。最近では『侵略!イカ娘』がこれを採用し、「可愛い異質さ」をもとにギャグを描いている。ま、イカ娘はドラえもん的でもありラムちゃん的な部分もあって本当は別個に語らねばならない存在ではあるのだが。

 

さて『斉木』で麻生はこうした構造にひとひねり加える。主人公の斉木は髪の色がピンクで、さらに頭にはアンテナみたいなのが二本刺さっている。このアンテナは斉木のあまりに強力な超能力を制御する役割を持つ。その役割はともあれ、少なくともこれは他の一般的な生徒とは著しく異なる形質だ。一見するとマサルさん以来の異質な格好としての主人公像として捉えうる。が、そうではない。斉木にかかればそうした異質さは彼の超能力で相対化できるのだ。作中では、斉木は超能力を用いてアンテナが異質であることを人々に認識させないようにしている。

 

斉木は目立とうとしない。斉木は吉良吉影のように静かに暮らしたいのだ。絶対的な力を持っているにもかかわらずだ。

 

こうした主人公の姿勢は、主人公自ら無自覚的にカオスをもたらすギャグ漫画のあり方とは逆行するものだ。地味でわかりにくいが、実は『斉木楠雄のΨ難』はギャグ漫画の大きなパラダイムに抵抗していることを強調したい。そういう意味でも本当に良い漫画で目が離せない。

 

そして、こうした漫画が鮮烈なデビュー作として登場してくるのではなく、たたき上げの作家から現れてくる点は、今後新しいギャグ漫画の形をうらなうときには必ず留意しなければならない要素になっていくだろう。実は麻生周一は怖いんだ。バージニアウルフ並みに。