かいけつゾロリのドラゴンたいじ
ついに私は恥ずかしさを乗り越えて図書館で『かいけつゾロリ』の刊本を借り出すことに成功した。今後、適宜一冊ごとに感想を述べて行きます。
『ゾロリ』から考えよう。
そのねらいは以下の通りだ。『ゾロリ』のような絵本は、子供たちがマンガを楽しむためのステップになると普段感じている。こうした絵本を通じて、マンガリテラシーを獲得しゆく階梯を探られたら、あるいは、「私たちがマンガ文化にどうやって出会うのか」を探られたら、と思っているのである。ではいってみよう。
かいけつゾロリのドラゴンたいじ (1) (かいけつゾロリシリーズ ポプラ社の小さな童話)
- 作者: 原ゆたか
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 1987/11
- メディア: 単行本
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ゾロリ大地に立つ
記念すべき『ゾロリ』シリーズ第一巻は『かいけつゾロリのドラゴンたいじ』と題され、ドラゴンによって攫われたお姫様を救い出すために、ゾロリとライバルの王子アーサーがドラゴン退治を競う内容になっている。
もちろんいたずらの修行に出ているゾロリは、優秀な王子アーサーを色々な手段で出し抜こうとする。そもそも、このドラゴンによる姫の誘拐自体がゾロリの眷族であるイノシシの「石井」と「ノシシ」とゾロリとが共謀した狂言なのだ。途中までは上手くいくが最後には悪事は露見し、ゾロリ達は手痛いしっぺ返しをくらう。ま、こうした展開が『ゾロリ』のお約束になっていることは今更贅言する必要はないだろう。
あ、あと普通にネタばれしても大丈夫だよね?まさかこの文章を読んでいる人で「いまから『ゾロリ』読むのめっちゃ楽しみにしてたのに先にネタばらしすんじゃねーよこのクソバカ!」とかそういうふうに思っちゃう人は多分いないはずだ。そして『ゾロリ』を読む良い子の諸君はきっとこんなブログ自体見てないはずだ。安心である。
『ゾロリ』の構成と魅力
さて言いたいことは2点。まず初っ端、ゾロリがイシシのノシシに出会うシーンだ。本編から引用してみよう。
やみを きりさいて、
ひめいが きこえてきました。
「たすけて~~~~。」
で次のページに話が進む。ページをめくる。問題はここだ。
おでんやさんが さんぞくに
おそわれていたのです。
意味不明である。イシシとノシシがおでん屋を襲撃しているのだ。意味がわからない。今後おでん屋はストーリーに全く絡まないし、ドラゴンが登場する作品におでん屋ががあるのも常識から逸脱している。ノシシなどはチクワを振りかざし店主のオヤジを脅迫している。
ページを開けて大きいコマでギャグを持ってくる。これはギャグ漫画の作法でよくみられるものだ。例えば『浦安鉄筋家族』などは物語の冒頭でこの手法を非常によく用いる。ページをめくった先に衝撃を持ってくる。基本的だがインパクトのある作法だ。
もう一点は、王子アーサーが装備を整えるために、イシシとノシシが待ち受ける偽物の装備屋を訪れるシーン。あるいは、イシシとノシシが操縦するドラゴンの図解シーン。ここでは物語はいったんその動きを止め、ギャグっぽい装備やドラゴンの図解が事細かに描写される。こうした細かな図鑑的な部分は、後から読んでも楽しいし、読み進める中でふと立ち止まって読みこんでしまう個所でもある。こうした仕掛けは『ゾロリ』作品の深みを増すために一役買っているだろう。こうしたあり方は、メルヴィルの『白鯨』に、ストーリーとは全然関係ないクジラの生態について延々説明する箇所があるのに似ている。敢えてマンガでたとえるのならば、弐瓶勉作品、『シドニアの騎士』なんかで兵器について専門用語を交えた解説が差し挟まれたりちょっと描写されたりするのに近い。
一言でいうなら心地よい衒学趣味がそこにはある。装備屋にある武器や防具に、思わずのめり込む。『ゾロリ』は子供たちに向けてそんな仕組みを用意している。そしてそういう仕組みは、形は変われど大人たちも結構好き好むものだ。
一回目から力入れ過ぎてもあれなので、今回はこれで擱筆。多分続きます。多分。