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ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。

西村ツチカ『なかよし団の冒険』『かわいそうな真弓さん』

いま最も挑戦的な漫画家といえば西村ツチカだろう。

 

新しいものに対してはなかなか言葉を持ちえない。既存の言語で語れない。だから新しいのだ。ここ2年の西村ツチカはまさにそんな感じで着実に力を伸長してきた。要は、とにかく凄いのだ、読んどけ!ってことなんだ。

 

西村ツチカ作品集なかよし団の冒険 (リュウコミックス)

西村ツチカ作品集なかよし団の冒険 (リュウコミックス)

 
かわいそうな真弓さん(リュウコミックス)

かわいそうな真弓さん(リュウコミックス)

 

ただそれじゃあブログをやってる意味があまりない。だから言葉にできる部分で頑張って何が凄いのか考えてみよう。ただしまぁ表現に関して解説するなんて、手品がどういう構造で面白いのか解説したり、ギャグをどうおもしろいのかわざわざ説明しようと試みるようなもので野暮ってもんなんだがね。

 

『なかよし団の冒険』所収「おんがえしの夜」。主人公は作品の途中で合コンに行くのだが、この合コンは主人公友人が言うには「どうせ今日はブスばっかり」なんだそうだ。その中に「滝川さん」という巨乳美女が何故かいることでストーリーが進むわけだが、他の面々は友人の言うとおり「ブス」なわけだ。この「ブス」さ加減を表現せんがためか、女の子の一人がやたら歯ぐきが出ている姿で強調して描かれる。この子は良い子そうなんだけど、いかんせん笑うとものすごく歯ぐきが出てしまう上、いつも笑っているような子なんだろう。最後の一コマがちょっと怪しいけど、登場するすべてのコマででかでかと歯ぐきを見せている。とにかく歯ぐきが見えちゃってる。全コマ!これってすごいことだよ。ガミースマイル。合コンに男から見て残念な子が来ているというのを表現するために、普通に不細工を描かず、歯と歯ぐきを用意したのだ。歯と歯ぐきの白と黒とのギザギザのコントラストをこれでもかとぶち込んでくる。ここが新しいしカッコいい。モブキャラが最高に意味を持ち、光り輝いている。

 

『かわいそうな真弓さん』所収「チカちゃんの発明小学校」。チカちゃんは発明少年美少女だ(発明少年というジャンルに属する美少女という意味)。彼女が発明したものに「ふくじゅう機」という相手を懐柔し服従させてしまう道具がある。「ふくじゅう機」はリモコン型で、突起のようなものを相手に突き付けつつ、電流のようなものを流して懐柔する。人間でも犬でも、チカちゃんに反抗できなくなる。ま、これはいいんだが、この「ふくじゅう機」の突起を刺す場所が常に一定で、それがひじの裏側なのだ。相手を服従させる印象的な道具なのだから、脳みそがある頭や、いかにも服従させますという感じに首に刺せば良いのに、あるいは触覚の窓口である手先とか、そういう重要なパーツに刺すのが効果的であろうに、そうはしない。人間生活で特に役に立たないひじの裏側が「ふくじゅう機」の刺しどころになる。ここは普段注射を刺すところだ。そんな日常的な刺しどころを「ふくじゅう機」のような超常的な道具の感部として用いるのだ。これははっきりいって異質である。相手を一瞬にして鎮めるのだから、スリリングな展開になった際などにはとっさにどこか任意の場所に刺したって良い。だけど常に肘の裏。

 

くどくどといらんことを書いてきたが、こんな感じでとにかく読んで楽しんでほしい漫画なのだ。絵も格段に上手い。ただし、こうした「新しいことを見る面白さ、楽しさ」というこの漫画の面白さが、「連載」という形に馴染むかどうかは別問題だ。ほとんどの漫画は、現在「連載」されることで日々立ち現れており、「連載」は漫画の基本形態になっている。一般に、漫画は「連載」から逃れられない。その常識化した基本形態と「新しいことを見る面白さ、楽しさ」ってのはもしかしたら無関係かもしれないしもしかしたら互いに排斥しあう関係なのかもしれない。そこだけは、そこだけは留意して今後50年100年くらい西村ツチカを楽しんでいきたい。

 

上の段落の「連載」というものを考えるために、西村ツチカの次は市川春子…じゃなくて浦沢直樹について考えてみようか。