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ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。

麻宮騎亜『快傑蒸気探偵団』

この漫画は、蒸気機関が異常に発達した「蒸気都市(スチームシティ)」を舞台にした探偵漫画だ。ヤングジャンプ連載。主人公鳴滝は探偵少年だ。彼はスチームシティを舞台に、怪盗や警察を巻き込み活発に動き回り大活劇を繰り広げる。ヒロインの鈴々は、敵につかまったり主人公を励ましたりしてしっかりヒロインしていてかわいいぞ。 

 

快傑蒸気探偵団 (Case1) (ジャンプ・コミックス)

快傑蒸気探偵団 (Case1) (ジャンプ・コミックス)

 
快傑蒸気探偵団 (Case8)

快傑蒸気探偵団 (Case8)

 

 

スチームパンクと、探偵

まずこの漫画を取り巻く「蒸気機関が異常に発達した世界」について説明しておこう。これはSFのサブジャンルである「スチームパンク」というものに分類される。「スチームパンク」の世界を導入することで、機械の重々しい雰囲気や、いい意味で暗くダークな世界が描かれる。まるで蒸気機関の最盛期だった19世紀末~20世紀初頭のロンドンのような、そんな雰囲気だ。この世紀末ロンドンという時代は、シャーロックホームズが活躍した時代と重なる。探偵ものをやるにあたって、「スチームパンク」を用いることで探偵の元祖が活躍した時代の雰囲気をオーバーラップさせているのだ。この雰囲気を感じるだけでも、本書を手にとる価値があるだろう。

 

探偵漫画のもう一つの可能性

さて、この漫画は1994年ころから構想が起こったという。1994年は江戸川乱歩の生誕100年の年であり、漫画界でも探偵ものが登場する機運が高まったのだそうだ。 やや先んじて1992年には『金田一少年の事件簿』、1994年には『名探偵コナン』の連載が始まる。探偵漫画の金字塔が現れた時代だったのだ。

名探偵コナン (Volume1) (少年サンデーコミックス)

名探偵コナン (Volume1) (少年サンデーコミックス)

 

 『金田一』と『コナン』は非常な流行を見せ現在にいたっている。そのせいで、探偵漫画のある種の「常識」が出来上がってしまっている。たとえば、推理の過程やトリックの精度を楽しむ仕組みになっていたり、最後には容疑者を一同に会させ、探偵が指をさして「犯人はお前だ!」とやるといったものが、探偵漫画の「常識」として成り立っていよう。

 

しかし、こうした「名指し型探偵」というスタイルだけが探偵漫画のすべてではない。このことを『蒸気探偵団』が物語っている。『蒸気探偵団』主人公鳴滝は初めに書いた通り、蒸気都市を活発に動き回り、銃を撃ったり爆発があったりしながら怪盗を追う。もちろんトリックや推理の部分もあるのだが、それよりも「活劇」のほうに重きが置かれているのだ。こうしたダイナミックに犯人を追うという探偵像は、『金田一』『コナン』の隆盛の中でかならずしもメインに据えられない要素であり、いわば忘れられつつあるもう一つの探偵漫画の可能性といえる。

 

ただしこの辺りについて『コナン』はあざとくて、コナンは小学生の友達と一緒にこの「活劇」をやることがあるし、阿笠博士の発明品が「活劇」の機動力になっている。史上最大の探偵漫画である『コナン』はやっぱり凄いのだ。なお私は灰原厨です。

 

さて、マガジンの『金田一』サンデーの『コナン』に対して、ジャンプは対抗しうる探偵漫画をついに作り出すことはできなかった。ただし探偵漫画隆盛の風潮に対してジャンプは、2005年に『魔人探偵脳噛ネウロ』を用意する。『金田一』『コナン』的な「名指し型探偵」のエッセンスを踏襲しつつ、探偵漫画風の作品が生まれた。ときたまこの『ネウロ』が、『金田一』『コナン』のアンチテーゼになっているという話がある。勿論そうした部分も充分にあるのだが、『ネウロ』主人公弥子ちゃんもまた「名指し型探偵」の一人なのだ。実は、『蒸気探偵団』の方が『金田一』『コナン』的な在り方に対するアンチテーゼとしてはエッジが効いている。鳴滝少年探偵は指をささない。

 

『金田一』『コナン』と同時代に、こうした探偵漫画が連載されていたことを忘れるべきではないだろう。『蒸気探偵団』は、探偵漫画のありさまの幅を広げてくれる漫画なのだ。