ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書き終え、現在は浦安鉄筋家族について書いてます。桜井のりおは神。

独身OLのすべて

webで連載されている漫画も紹介しちゃうよ。まずりん『独身OLのすべて』。「オモコロ」において産声を挙げ、現在は「モアイ」というweb漫画サイトで連載されている4コマ漫画だ。

 

http://www.moae.jp/comic/dokushinol

 

売れ残りの30代独身OLが、いわゆる「ゆるふわ系」女子や「サブカル系」女子、「リア充」女子の振る舞いを揶揄し分析し激しく糾弾する漫画だ。「ゆるふわ」や「サブカル」「リア充」に関するあるあるを描きつつも、独身の悲哀や開き直りをも同時に描き切る作品である。

 

さて、この漫画の面白いところは、主人公の独身OL三人が人間の形で描かれない点だ。以下、サイトから引用した、キャラクター紹介を見てみよう。

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勿論彼女らは他の人と普通に会話し、人間として生活しているのだが、描かれる姿は人間ではない。まずノブ子が一番おかしくて、頭から手が生えている。タマ子は人間に近いが髪の生え方がおかしく、角度が悪いと丸坊主に見える。マユ子などはりんごである。こうした外見については特に解説や理由づけは無い。

 

すなわち彼女らは、いわば、〈異形〉の存在として描かれる。一方、彼女たちに糾弾される「リア充」女子たちは、可愛く人間の姿で描かれる。

 

ここにこの作品の巧みさがある。すなわち、主人公たちが(モテナイ売れ残りゆえに)揶揄し糾弾する、という姿勢はある種〈異形〉なるものなのだ。

 

主人公は時に正義と親和性を持つ。主人公の姿勢こそが正しいのだ、と見る人間に訴える構成を持つ作品はたくさんある。この作品だって、主人公たちを普通に描いていたら(売れ残りだけど美人に描くことだってできたはずだ)、主人公たちの正義度が高まったことだろう。

 

しかし、そうはしなかった。そこにグッとくるのだ。

 

主人公たちのモテナイ売れ残りであることに起因する、女子たちへの嫉妬や糾弾は、決して100%正しいものではないのだ。もちろん「あるある」と納得する部分も多くあるのだが、それがすべて正義ではない。「リア充」女子たちの営為は、実際的には悪いものではない。主人公たちが勝手に嫉妬しているのだ。〈異形〉がそれを訴えてくる。

 

〈異形〉の主人公を設定することで、主人公に正義を持たせない。客観的に「リア充」「非リア」のバランスを保たせることに成功している。そしてこのことで、主人公たちのモテナイことへの悲哀や開き直りが、一層エッジの効いたものとして表現されることが可能となる。

 

主人公たちへの読者の「肩入れ」を、〈異形〉なフォルムによってブレーキをかけ抑制している。「非リア」万歳!、とはしない。一筋縄ではいかせないところがこの漫画の妙味である。ただしこの〈異形〉は、ちょっと可愛いフォルムなのだ。これをどう考えるか?うーんどうやら二筋縄でもいかないようだ。