ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書き終え、現在は浦安鉄筋家族について書いてます。桜井のりおは神。

夜明けの図書館

図書館の専門職員「司書」にスポットを当てた漫画。「司書」さんは普段、蔵書の整理や図書館での窓口業務を行なうほか、利用者が知りたいことや疑問に思っていることに対して調査し、情報を提供する業務「レファレンス」も行なう。

 

本作では、この「レファレンス」業務を軸にして、新米司書の成長を描いている。新米司書のひなこは、利用者の身近な疑問に答えながら、様々な人とのかかわりを経験し、自身も経験を深めていく。知的探求が人の輪を広げる、という体の漫画だ。読んでいて非常に道徳的だ。ほんわかする。

 

夜明けの図書館 (ジュールコミックス)

夜明けの図書館 (ジュールコミックス)

 

 

夜明けの図書館(2) (ジュールコミックス)

夜明けの図書館(2) (ジュールコミックス)

 

 

 

上記のように作品の骨格はシンプルでわかりやすいのだが、この作品のまとう雰囲気は一種独特だ。それは掲載誌が『JOURすてきな主婦たち』という、20代半ば以降の既婚女性を対象にした月刊誌で掲載されていることによるのだろう。さらに、単行本奥付によれば、三か月ごとの隔月掲載のようであり、これも影響しているように思う。

 

さてどんな雰囲気なのかというと、この漫画は非常にのびのびのんびり牧歌的なのだ。これがもし、メジャー誌で週刊あるいは月刊で掲載されていたらどうなっていただろうか?キャラクターががっつり掘り下げられ、損耗して行ったことだろう。例えば、事務方の男の人(レファレンス業務にあまり必要性を感じていない)との軋轢と和解、さらには情愛を紡ぐ…といった感じでどんどんキャラクターを使役していき、物語が発展するようにも成りえただろう。

 

また、年が近い司書さんとのかかわりだとか、臨時職員さんとの関係だとか、一度来館した人がまた来たりだとか、現代の漫画がよくやりがちな部分で、やろうと思えばどんどん掘り下げられる箇所があるのだが、この漫画ではそういったところにはかなり禁欲的だ。「新米司書」というとても興味深い、色々使えそうな設定も長くは用いない。漫画の中での時間が現実世界の時間の経過と軌を一にしているせいで、2巻の時点で勤務二年目になってひなこはだんだん仕事に慣れてきている。

 

勿論、物語は進展しキャラクターや設定が掘り下げられていくのだが、じわりじわりと、ペースがとてもゆっくりなのだ。改めて言うが、これはメジャー誌でない雑誌で隔月掲載をしているからこそできる、贅沢なあり方だと思う。

 

現代の嵐のような漫画の出版情勢におけるストーリーやキャラの損耗とは逆行する漫画のあり方を『夜明けの図書館』は体現している。こういうペースの漫画があったっていい。たくさんあった方がいい。

 

 

 

普段私も司書さんに大変お世話になっていて、こうしたレファレンスを行なっていただいているので、こういう仕事の大切さ、面白さが広まってほしいと思ってる。ということで本作の紹介でした。