田中一行『イコン』
内省型主人公は今日も掛け値なしに思考をぶっ飛ばす!
この漫画は、アフタヌーンで2011年5月号から2012年1月号まで連載された漫画だ。人を思いのままに操れる石板を手に入れた青年が主人公。
能力を奪おうとする敵と対峙する中で、主人公は絶対的な能力を使用することに対して葛藤を深めて行く。加えて、自身の交際相手に対し、彼女を守るために能力を使ってしまう。守らねばならない相手に対しても、排除すべき敵と同じ振る舞いをしてしまったわけだ。主人公はさらなる葛藤にさいなまれる。加速度的に戦いに巻き込まれる中、主人公は彼女と自己の情動を守りきれるのか?
- 作者: 田中一行
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/07/22
- メディア: コミック
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- 作者: 田中一行
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/01/23
- メディア: コミック
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こういう内省的な度合いの強い主人公ってのは、ここ最近ありがちなモチーフだが、この漫画の特徴はそれがもうぶっ飛んだくらいに程度がはなはだしい。悩みに悩んで、奇妙な比喩的表現で主人公が描かれることもしばしばだ。
中二病の祭典
そしてだ。最大の特徴は、キャラがもうほとんど全員中二病的行動や発言を延々繰り返すところにある。主人公も内省型主人公らしく悩みまくっているし、途中から協力関係になるヤクザも自分の考える「愛」の形について滔々と語り始める。最終的な的になる己己己己人というキャラも(この名前な点で中二病キャラであることをお察しいただきたい)とにかく比喩が直球勝負で中二病だ。彼らがそれぞれ華麗なる文句を垂れながら自分のアイデンティティのために闘っていく。ヤクザなんかは先述の己己己己に対して「中学生みたいなことを言うなw」みたいな揶揄を行なうが、この漫画の登場人物はだいたい邪気眼じみた発言ばかり繰り返す。もうね、すげーおもしれえぞ!!
「中二病」なんていう言語ができ、中二病的概念が顕在化されて久しい。その概念は段々と使い古され損耗して、そのまま使ってしまえば、現在では陳腐な表現になってしまいうる。この回避の仕方として、この漫画は中二病に対してアクセルを思いっきり踏み込んだ。中二病に対し、自己のスタンスをはっきりさせた漫画なのだ。
本作はあまり長い期間連載はされなかった。単行本は全二巻だが、一巻の後半、ヤクザが登場するあたりから、中二病の応酬の妙なノリになってくる。サブカル野武士集団的連載陣を誇るアフタヌーンっぽい、固有的ぶっ飛び方を見せたのだ。もしも初めからこういう作者のノリが前面に出ていたら・・・どうなっていたことだろうか。ともあれ、短い漫画なんだけど、地味に見ておいて全く損がない漫画だ。
物語の後半にものすごいパワーを見せつけた作者の田中氏である。今後も漫画を連載することだろう。非常に楽しみだ。