石黒正数『外天楼』をよむ
『外天楼』は伏線回収漫画にあらず
石黒正数『外天楼』は誤読されている!(はぁ、我ながら大きく出たもんだ)
- 作者: 石黒正数
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/21
- メディア: コミック
- 購入: 34人 クリック: 529回
- この商品を含むブログ (154件) を見る
本作は一冊本であるためか、本当に多くの感想をネット上に見ることができる。伏線をきれいにまとめた漫画だ、だとか、後半に行くにつれての展開が予想できない、という感想が多い。だがまぁ、この漫画は初めから伏線を講じていたわけではないのだと思う。最終的なところまでの大まかな流れは、おそらく2010年のどこかの段階で出来上がったのではなかろうか。そして連載しながらラストまでを組み立てて行った。だから、後半に行くにつれての展開が予想できないものになるのは、まぁ、当たり前だというわけだ。
2010年あたりを契機として、物語を終焉に持っていくために、既に紡がれた物語を上手くやりくりし、整合させたのだ。このやりくりの巧みさ(まるで初めから伏線であったかの如くにさえ見える)が石黒漫画の面白いところだ。
『外天楼』はミステリにあらず
『外天楼』は殺人事件が起こりその謎解きが話のキーになっている。ここだけ見ると、まことミステリをやっているように見える。しかし実際それはミステリの筋を忠実になぞった「何か」だ。
物語の謎を解くための情報は、読者が物語の謎を解明しようと試みる段階において、出そろわない。最後の最後まで出そろわない。これは、先ほど書いた、伏線が初めからカッチリ決まっていたわけではない(話のオチが初めからカッチリ決まっていたわけではない)、という話と関わってくる。それでも丁寧に丁寧にミステリ仕立てに漫画を練りだしてくる。でもさっきから言っている通り、ミステリそのものではない。
ではこの漫画は「何」なのか。答えは「ミステリ展開からの少し不思議的SFを用いた着地」を見せる漫画なのだ、と思う。つまり、『外天楼』は、ミステリから導き出される謎の解決に関して何故かSFが主導してその役割を担う構成となっているのだ。丁寧にミステリをちりばめてきて、最後に異次元からSFがそれをかっさらう。その醍醐味、あるいはキレ味に騙されて、単純なミステリと勘違いしてはいけない。
実は石黒はこの手法の常習犯だ。石黒の『それでも町は廻っている』の「小学校の人口池に怪獣がいる」という話。この謎の解決のされ方が典型的だ。最後の最後でSFが鮮やかにオチを簒奪する。
- 作者: 石黒正数
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2008/12/26
- メディア: コミック
- 購入: 12人 クリック: 48回
- この商品を含むブログ (169件) を見る
ミステリ~~~~~~~~SFッ!
ミステリ~~~~~~~~SFッ!
ミステリ~~~~~~~~SFッ!
擬音的表現ならこんな感じだ。
既存の言葉を使うなら「ヴァン・ダインの20則」だとか「ノックスの十戒」だとかの我々にとって「お約束」となっているものを、鮮やかなSF的手法で打破するところに、石黒の漫画家としての固有性、真の面白さがあるということだ。ミステリに関するタコ壷化した既成概念(それは我々が無意識に持ってしまっているモノだ)をSFによって三回転捻り。おお!おお!