ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。

アゴなしゲンとオレ物語

00年代を代表する下劣

この漫画は、トラック運送業を営むゲンさんと社員のケンヂを中心にした、エロ・下ネタなどくだらない内容をクソみたいに盛り込んだ21世紀初頭を駆け抜けた本当に良い意味でファック気味にシットなギャグ漫画だ。

アゴなしゲンとオレ物語(1) (ヤングマガジンコミックス)

アゴなしゲンとオレ物語(1) (ヤングマガジンコミックス)

アゴなしゲンとオレ物語(32) (ヤングマガジンコミックス)

アゴなしゲンとオレ物語(32) (ヤングマガジンコミックス)

 

なぜ適当すぎるオチが割とあるのか?

作者は平本アキラ。作品を語るにあたっては、連載中の画力の向上が良く取り沙汰される。しかし、むしろ重要なのは12年ほどの連載の中で、お下劣ギャグを堅持し続けたところにある。

 

「笑い」を理論的に追求しようとすると、往々にして人は病んでしまう。敢えて具体的な名はあげぬが、落語家でも芸人でも、求道の果てに病んでしまう人は多い。だから以前書いた浜岡賢次は驚異的存在なのだ。そしてこの平本も。

 

平本も、週刊連載で「笑い」を提供しながら「笑い」の感覚がマヒしていったことだろう。「面白いということはどういうことか?」と悩むこともあったはずだ。しかし平本は12年やり抜き、今は『監獄学園』という漫画を描いている。この原動力は何か?

 

『アゴなしゲン』作中には、時たまあまりにも投げっぱなしなオチが散見される。ギャグ的にどうなの?っていう事例。ただ個人的にはこれが上記の理由を考える上で大事なのだろう。「笑い」に対して真面目に考え過ぎない。このことで、むしろ持続的に「笑い」を提供し続けることができたのではないか。あの豪快すぎる、よく意味のわからないオチこそが、「笑い」との適切なお付き合いを持続させ、連載を支えていたのだ。

 

やはりギャグ漫画は時に切ない

そんな『アゴなしゲン』も、作品の後半になると切ない話が多くなる。ゲンさんがうだるような暑さのもと、仕事さぼって夢うつつの中でソーメンを食べた後自分のチン毛に白髪を発見してしまい「俺も変わらなきゃ・・・」と思う話。閉店するバッセンにいる幽霊の女の子にゲンさんがホームランを打ってあげる話。この辺りの話の持つ雰囲気は、独特だ。ギャグ漫画っつーのは長期連載の中で「笑い」のエッジによって擦り減る。上記の事例は、その擦り減った時に、キャラが見せる一瞬の火花のようなものだ。

 

こういうのは見ていて切ない。ホントに切ない。連載の蓄積・時の流れによって、キャラがただのおバカ以外の姿をさらけ出せざるを得ないシチュエーションになってしまうのだ。

 

とっても!ラッキーマン』でラッキーマンが大宇宙神になったあたり。『魁!クロマティ高校』で林田が地底大陸に行き、帰ってくるあたり。この辺りは長期連載のギャグ漫画だからこそ醸成される切なさがある。『アゴなしゲン』も含め、これらはもう、長くギャグをやった漫画にだけ許される境域なのだ。

 

さて平本は、こうしてギャグ漫画を一つやりきった。そうしたステージを踏まえたうえで連載されている『監獄学園』は、ここでは詳述しないが、彼にしかたどり着けないような境地を描いている。そして我々に関して言うのならば、『アゴなしゲン』という12年間の良質な一つの経験を読者として追従し観測できたことは、誠に幸運であったと言わざるを得ないのだ。