私説『浦安鉄筋家族』の歴史2 無印19巻〜31巻
無印19巻〜31巻(1998〜2002)
前回は、浦安鉄筋家族の連載開始期からいわゆる「黄金期」を見てきた。今回はその後の展望を見ていこう。
一つの転機を19巻に求めることができる。ここで浜岡は、巻末の作品評において「新しい笑い」(269発目)「新パターン」(282発目)が出てきたと語る。具体的に見ると花子と小鉄の静かなやりとりで一話やり通した話と、小鉄がテストが難しすぎて死にかけ走馬灯を見る話とが「新しい笑い」「新パターン」として挙げられる。これらの話は必ずしも派手な爆発やウンチを伴うものではなかったり、オチより中盤の方が激しい暴力に晒される話である。いうなればキャラクターの内面に迫る様な裏をかくオチとなっている。これらは、現在に至るまでの派手ではないオチが生まれ始めた時期と位置付けられるだろう。こうした新たなアングルの作品が生まれつつも、普段の元気なギャグが展開しつつ高い水準で連載は続いていく。
さてこの時期の特徴としては、小鉄軍団の周辺人員が整えられた点を挙げることができる。具体的には涙や花子、中田(田中)が次第に準レギュラーからレギュラー程度の位置に落ち着いていく。以下個別に見ていこう。
涙は古く80発目に登場している。俺、涙かなり好きなんだけど、その理由は、とてもキャラクターとしてしぶといからだ。浮沈の多い登場キャラの中でしぶとく残り軍団の一員として振る舞う稀有な例だ。初めに涙は星飛雄馬のパロディキャラとして一話だけに登場した。その後長らく出番はなかったが、カドベンへの当て馬として再登場を果たす。カドベンが諸般の事情で2回目で退場した後もなんだかんだ小鉄軍団の一員として一緒に遊ぶ姿が散見される。小鉄たちが野球をする場面は少なくないから、潜在的な需要があったのだろう。そのうちに涙の出番は次第に増え、かなりの先になるけれども、やがて勇子ちゃんというベストパートナーを得ることになるだろう。
花子はさらに古く、連載初期からモブキャラとして描かれてきた。花子は小鉄というか男子が嫌いというスタンスで作品に登場してくる。小鉄軍団のやや外縁に属し、近い外側から小鉄軍団を動かす存在である。とくにこの時期は花子がキレて小鉄に攻撃を仕掛ける描写が連続するが、これは既存のあかねやのり子ではできない純粋な暴力装置と位置付けられる。作品世界が成熟し人間関係の輪が拡張される。
中田さんは全くの新キャラとして、涙や花子に続く。独自のアングル「物静か」を切り札に、賑やかな浦安作品世界の裏をかくような振る舞いで小鉄軍団の周縁を彩る。呪術やダースベーダーネタなど「裏の顔」で意外に発展可能性を持つ彼女は、花子との掛け合いも小気味よく、ちびまる子ちゃんのパロディキャラという枠組みを超えて、準レギュラーキャラの地位を得ていく。
家族の中では大鉄が大車輪の活躍を見せるが、この時期は、個人的には目を引く家族ネタは少ない。
さて、無印の後半〜31巻まではいわば安定気とも言いうる時期を迎えた。初期の勢いのよい時に比して下賤なネタは少なくなり、同じく初期を彩った濃いメンツは登場の頻度を押さえる。花丸木、ポセイドン笠原、国会議員、稲川ジューン、松五郎。タイミングはそれぞれ偏差があるだろうが、彼らの登場は頻繁ではなくなる。また舞台となる浦安の街もなんだかクリーンアップされて、うんこやゴミやチラシ、落書き、角材や石、野犬などの描き込みは少なくなる。レギュラーキャラの嗜好や関心意欲もマイルドになる。
まず内的要因を探れば、ギャグ漫画の宿命のようなものがあるだろう。濃いキャラのままではずっと全力疾走できないのだ。次第にキャラは丸くなっていく。フグオと春巻が端的に解りやすい。小鉄もいじめっ子ではなくなるし、仁は貧乏ながらも仁愛のあるキャラクターになっていく。また国会議員もこうした損耗を考えるには好材料で、巨大なうんこをするシチュエーションは次第に枯渇していってしまう。国会議員は令和の今に至るまで登場は続くが、うんこのネタが十分に腸内で温められてから、満を辞して登場する。すなわち頻度は抑えられている。連載も6年程度が経過し、キャラクターは当初の勢いのままではいられない。
また外的要因を探れば、1998年に本作が一回目のアニメ化を迎えたことが大きいのかもしれない。アニメではパロディやウンコがどこまで原作どおりになるか議論があったようだ。またアニメで興味を持って原作に流入する新規の読者も想定されただろう。そうした要因から、(当初から比すれば)マイルドな作風に徐々に変化していったのではあるまいか。(私は浦安のすべてが好きなので、どの時期が良いとか悪いとか評価を下すことはないんですけどね)
こうしたまさに安定期を経て、作品は運命の「一度目のリニューアル」に突き進んでいく。