ディオゲネスの宴

漫画の紹介と、感想を書いていきます。 『BLAME!』全話紹介&解説を書いて行っているのですが、大分放置しておりすみません。桜井のりおは神。

【BLAME! 関連短編紹介&解説】 BLAME!2 第八系子体プセルの都市構造体脱出記

2008年の短編。霧亥が都市の通信を回復したずっと後のお話。珪素生物の女性が、霧亥の通ったあとを辿りながら旅をしている。彼女は都市のはてまでたどり着き、造換塔のその先に行こうとするも、駆除系に阻まれて負傷する。そこに霧亥が助けに現れて、彼女は無事に都市の外側に脱出。人間に破壊された故郷を再建するために更なる旅に出る。


・この話、ストーリーはあってないようなものなんだけれども、色々重要な視座を孕んでいる。

・まず、この話もまたネットスフィアエンジニアと同様に、『BLAME!』世界の新しい物語になっていくかというと、そうでもない。今まで構築されてきた世界観にある種の決着をつけるような構成になっている。2点ほど、見ていこう。

 

・霧亥が珪素生物を助けているところ。霧亥という人物の性向としては、大きく2つの要素がある。

Aネット端末遺伝子を見つける目的意識を持っていること
B珪素生物に強い恨みを持って攻撃意識を持っていること

ネットスフィアエンジニアと今作とで、これらABともに解体されてしまったことがうかがえる。ネット端末遺伝子を見つけてしまったし、今作では怨敵である珪素生物を助けてしまった。霧亥らしさ、霧亥のキャラ。今まで構築していた要素が解体された。

・非武装木星観測者は問答無用で殺害するのに、可愛い女の子珪素生物は助けちゃう。私も以前、霧亥がスケベでむっつり野郎だからこんな風にしたのだ、と半ば冗談で書いた。もちろんそうした見方も可能だけれども、実態のところとしては霧亥の心理に何か革新が起こって、珪素生物を赦すことができるようになったのだろう。当然その理由は明らかにされない。ただし、霧亥のもう一つの構成要素たる「ネット端末遺伝子の捜索」が完了したことと無関係ではないだろうと思っている。ネットへの接続は少年が担うのだろうけれども、霧亥もその内に間接あるいは直接にネットの知識に触れることも多くなったことだろう。そこで、人間と珪素生物の連続性なんかを知る機会を得たのかもしれない。あるいはもっと直接的に霧亥自身の記憶や来歴を回復させたのかもしれない。とにかく、ネットに接続することで、記憶喪失の霧亥に刻まれていた二つの強烈な意識付けが解消されたに相違ない。霧亥は自分の身体に纏われた呪縛から解かれた。ようやく自分自身の意識や活動を取り戻したのかもしれない。そこでは、警官以来の優しい人々を守る側面が、珪素生物へも射程を伸ばし強調される心性になったのかも。ということでこの短編は、プセルちゃんの物語なんだけれども、その背景では霧亥の物語からの解放が暗に示されている。

 

・人間の珪素生物への攻撃が描かれている点にも注目したい。『BLAME!』って、広大な階層都市の風景や、電脳世界の寂寥感などが特徴として強調されがちだ。もちろんそれはそうなんだけれども、もう一点大切な論点があると思う。それは、作品中の対立する諸勢力が実は連続性を持っており、力関係や属するキャラクターが状況次第で変転する点だ。たとえば、サナカンがまず解りやすくて、セーフガードなんだけど人間のシボの中で人間性を培って、統治局の代理構成体になって、最後は何にも所属の無いただのサナカン(人間といっても良い?)として生を終える。シボは、人間として生まれてセーフガードの機体に乗り移って、さらに人間に戻って、最後には遺伝子の胚入りの駆除系になってしまう。霧亥はさんざん議論したけど、人間~セーフガードの密使~人間? とにかく、メインキャラたちは対立する勢力を渡り歩き、性向や身体性を大きく改変させていく。また、ドモチェフスキーとイコもこうした観点から見ると大変面白い存在で、いままで散々敵として(克服するべき存在として)描かれてきたセーフガードが、主人公たちと共闘する構成を展開させる。このように、諸勢力やそこに属するキャラクターは極めて相対的だ。

・その最後のパズルのピースと言えるのが、人間→珪素生物への攻撃だ。いままで、サナカンが珪素生物を虐殺していたけれども、一般には珪素生物の方が人間より強力であることが描かれてきた。本作では、それが逆転する可能性があることが明示された。場合によってはどんな勢力でも優位に立つシチュエーションがあること。勢力もキャラクターも、強さや立場は相対的で横断的だ。それが改めて強調されたのが本作と言えるだろう。

・こうした相対性に関する感性は、弐瓶氏の続編でも通底する要素として発揮されている。『シドニアの騎士』でガウナが人間そっくりなコピーを残したり、とかね。

 

・あとは細かい点。「百碍無操教示」「趨醒」とかの単語。珪素生物がかつてはある「教団」だった雰囲気がよく解る描写。文字の意味は解らなくても、なんとなく珪素生物が年少者に教育を施していることが解る。こういうの、いいよね。独自の単語だけれども、何をしているのか明確に把握できる。こういう技術が弐瓶漫画にはちりばめられている。

・建設者から電力や装備を奪う。珪素生物と建設者には互換性があるようだ。というか、この世界の諸勢力はそれなりに互換の技術が成熟していそうだ。

・助けに来た霧亥。この霧亥やたらかっこいいなぁ。この時期の絵柄で霧亥。いいなあ。

・霧亥はたまたまここにいたんだろうか? その可能性もあるけれども、あるいはネットスフィアエンジニアの主人公みたいに何か通信網があって、造換塔へ挑む者がいたのを感知してここまでダウンロードなどでやってきたのかもしれない。

・霧亥のプセルの持ち方。古くから我々のインターネットで「その持ち方はねーだろ」と言われてきたところ。でもこれ以外の姿勢って意外といい案がない。肩組んだりとかも何か変だし……。霧亥と珪素生物との微妙な間柄がわかってこれで良いのかも、しれない。

・地味に、『BLAME!』世界での普通の宇宙空間が初めて描かれた。恒差廟みたいなのもあってサービス精神旺盛だ。都市の外側ってこんな感じなんだな。あと、霧亥が出たところと異なり、水がないところもあるのもわかる。

・プセル。このプセルめっちゃ好き。そりゃ可愛く描かれてるから可愛いのは当たり前なんだけど、人間の集落に入っちゃうドジなところがあったり(それに気づくコマの表情が可愛い)、今まで人気がありつつも生活が謎に包まれていた珪素生物の社会を示してくれる。まぁ、人間の集落に踏み込んじゃうところは、年若いうちに故郷を失い、通信や感知のデバイスやテクニックが未成熟なんだろう。今まで珪素生物はわりとぶっ飛んだやつらが多かったんだけど、なんかこのプセルは普通そうだ。珪素生物にも、種族の分岐があったり、非戦闘員がいたりと、多様なんだろう。

【BLAME! 関連短編紹介&解説】ネットスフィアエンジニア

2005年の読み切り。霧亥がネットスフィアとの交信を復活させた1000年後の世界。ある階層に生きている造換塔が発見された。階層の人間では手に負えない。そんなところに、解体屋を名乗る男が現れて、事態の終息をはかる。


・このお話では、霧亥がクエストに成功した後、都市世界をどのようにしたのかが描かれている。すなわち、ネットスフィアとの通信が可能になった基底現実において、都市世界をネットスフィアに依存した社会にはしなかったのだ。そんなことが示される。

・階層都市にはネット端末遺伝子を持たない人々が住んでいる。本作で示されるように文明が発達したところもある。長老やサキシマさんのように、ネットスフィアの知識ではない科学知識で通信や感知が可能だったりする。こうした都市内部に生きながらえた人類を、ネットスフィアに接続しうる以降も、そのままにしておくという判断がなされたということがわかる。

・これは霧亥らしい判断だ。もともとセーフガードへの密使として活動していた霧亥。セーフガードのねらいに批判的な勢力だ。セーフガードはネット接続を正式にできる人間を保護するが、そうじゃない人間は排除する。ネットに接続できる人とそうでない人との割合は『NOiSE』からある程度推し量ることができる。貧しい多くの人々はネット接続をする資格がないのだ。そのまま、都市の増殖に呑まれた多くの人類がいたことだろう。霧亥は、そうした人々を守るような立場にあり、セーフガードに密使として参与した。ということで、ネット端末遺伝子がなくとも人類がありのままに生きていける世界を、霧亥は階層都市のなかに構築した。単純に言えばセーフガードがでなくなるくらいで、あとは何もしないでそのままにしたんだけれども、この判断は重要だ。ネットスフィアが多くコントロールする社会にはしなかった。そこに今生きている人々のものにした。霧亥は長い長い時間をかけて、ネットスフィアによる電脳通信世界の頸木を外したともいえるだろう。

・けれども、暴走して肥大した都市の管理・保守メンテナンスは必要だ。それはネットスフィアのシステムに依存しているから、ネットスフィアの機能をゼロにしてしまうことは不可能。都市の基礎的な保持にはネットスフィアの技術を使う。しかし、出しゃばるようなことはしない。物語冒頭の文句「見えざる主が都市から去り」とはそんな状態を指すのだろう。それでまた1000年がたった。

・物語では建設者が登場する。上で述べた通り、ネットスフィアの技術が階層都市の保守管理のために用いられ、建設者も動いているのだろう。

ネットスフィアで都市を運営していると、どうしてもバグのようなことが発生する。人類にとって危険な造換塔なんかが生成されてしまい(あるいは太古に生成されたものがそのままになってしまっており)、人類に危害を加える。人類の側も、太古の技術の知識を(塊都の人々のように)何らかの方法で得ており、利用しようとする。しかし、それが極めて危険なものとは認知していない。

ネットスフィアによる都市の維持にアクシデントが起こった場合にやってくるのが、本作の主人公なんだろう。額には統治局のマーク。通信を聴いてやってきたと言っている。普段はネットスフィアにいてダウンロードして来たのだろうか。あるいは普段から基底現実で過ごしていて、造換塔発見の通信を傍受し(あるいはネットスフィアに感知させており)、広い階層世界を一旦電磁的な存在になって移動して来たのだろうか。どっちでも俺はグッとくるなぁ。

 

・俺は本作の主人公が、霧亥が育てた胚から生まれた少年が成長した人物だと思っている。もしかしたら違うかもしれない。作中に明言はない。ただ、ネットに悠々と干渉できる要件を満たす存在は、作中では彼だけだ。だから彼が、霧亥や、シボやサナカンの、あるいはセウの息子なんだろうと思う。遺伝子的にはセウ(シボ)とサナカンの息子。顔つきセウっぽいよね。

・重要な問題がある。防護スーツを着ていないのだ。『BLAME!』最終話では、胚から生まれた少年は防護スーツを着ている。これは都市に感染性の何かが蔓延しており、人間の生成の早い段階で、ネット端末遺伝子が失性してしまうからだとかつて推理した。だから、ネット端末遺伝子を持つ子供の胚は都市の外で成長するよう設定されていたのだろう。ところが、本作の青年は防護服を着ていない。替わりに、ペンダントみたいなものを首から下げており、これがセーフガード除けになっているようだ。兵士の女性が着けても同じように機能するから属人的ではないデバイスのようだ。おそらくどこかの段階で、感染性の何かに耐性を得たのか、あるいはあのペンダントこそがネット端末遺伝子の役割を果たしているのかも(無線LANルーターみたいな受容器?)。機能性・機動性を得るために、遺伝子を外部に抽出した可能性を指摘したい。だから女性にペンダントを渡した後は普通に戦闘になってしまうし、最後、造換塔を解体する時は無骨なやり方になる。

・造換塔、人間にはかなり解除しにくい構造だなぁ。本来なら専用の建設者なりなんなりがあって、カバーを外して、安全に機能を停止させるのだろう。人間向きの構造になってない。

・駆除系。遺伝子を持っている人に対しては黙って立っていて何も反応しない。可愛らしくすらある。首の後ろに機能を停止させるツボがあるようだ。専用のデバイスで押す。時計とかの押しにくいリセットボタンみたいな造りになっているようだ。

 

・この話には「ついに今『BLAME!』の続編が始まる!!」と銘打たれていたそうだ。しかしこの短編はどちらかというと『BLAME!』の作品世界を閉じようと、着地させようとしているように私は思える。だから2話目以降がないのもなんとなく納得してしまっている。すなわちこの物語では、『BLAME!』の主題だったネット端末遺伝子の捜索が終わり、それがどう階層都市に用いられたのか(どのような効果をもたらしたのか)が明らかにされた。物語の目的の大なる部分の「答え合わせ」をしているような短編だ。もちろんお話自体は大変面白い。けれども、作品世界の主題を補完するような構造になっており、悪い意味ではないけれども新規性、新機軸といったものは多くはない。この時期、そうした新規性や新機軸といったものはすでに弐瓶氏は別の連載作品(『ABARA』や『BIOMEGA』)で展開されていた。

・この後の『BLAME!2』にもそんな性質が読み取れる。詳しくはそちらでも語ってみよう。

 

・もともとネット端末遺伝子を持っていた人はどうなったんだろうか。たとえば、『BLAME!』後半に出てきた女の子や、彼女が送られた臨時的な空間にいた人々。彼らもきっと、彼らが住むに相応しい場所を彼ら自身の判断で選べるように、霧亥や青年が差配したのだろう。ネット端末遺伝子の有無で差別がないような世界が構築されたのだろう。そうなってくると、いよいよこの階層都市で語り得る物語は少なくなる。弐瓶氏の関心はやはりこの時期においては『ABARA』や『BIOMEGA』に描かれる世界に向けられていったのだろう。

【BLAME! 関連短編紹介&解説】BLAME

四季賞で審査員特別賞を受賞した弐瓶氏のデビュー作。警視庁の霧亥が殺人事件を追うなかで、機械に自我を移設した犯人と対峙する。

 

・警視庁捜査一課の霧亥。まだまだ警視庁とかがある時代。『BLAME!』からすれば古代だろう。でも、風景は私たちから見れば未来だ。

・霧亥、車かっこいいし、捜査も手慣れている。渋い若手の敏腕刑事といった感じ。どこまで「霧亥」を連続した存在として考えるか難しいのだけれど、『ブラム学園!』なんかのスケベなキャラ付けや、『BLAME!』での何かが欠落した(場合によってはちょっと間抜けに見える)霧亥とは雰囲気が違ってとてもいい。

・でも。強力な銃を射撃場で試し打ちする必要はあるのかなぁ? 同僚? もドン引きである。

 

・犯人の男。亜極剤って良く解らんけど、ほぼキまる薬なんだろうか。注目するべきは、取引のシーンでも霧亥との邂逅のシーンでも、無線で意識を機械に移送している可能性がある点だ。機械も強力。あるいは、この男が珪素生物の遥かなる先祖なのかもしれない。そうなればまさにイヴィが言うように、珪素生物は上代から霧亥に恨みを持っていてもおかしくはない。

・強力な銃は、とにかく霧亥のシンボルだ。

 

・この霧亥がやがては「セーフガードの密使」になり、さらに犬女たちの一派に参与して、さらにはシボと出会って最後にはネット端末遺伝子を持った子供を育てるんだろうか? 想像するだけで面白い。

【NOiSE 全話紹介&解説】 第六章 聖地

裾野が珪素生物の拠点を襲撃して、刀を取り戻す。しかし最終的には都市の暴走と、珪素生物の繁栄を止めることはできなかった。

 

・超スピードの裾野。この後の弐瓶作品によく出てくる、雑魚勢力が短い時間に圧倒される描写だ。一応裾野は手がもげているので、珪素生物側も頑張っているのだろう。

珪素生物は数が大分増えている。ネットからのダウンロード窃盗技術が安定したのだろう。セーフガードは正規の接続権を持たない存在を積極的に排除していくのだから、貧しい人を中心に珪素生物になって自衛したい人も増えたことだろう。そうした人々を取り込んで、教団も大きくなっていったに違いない。

・裾野はそんなことはお構いなしにバシバシ殺していく。こんなところも、ちょっと霧亥と重なるところがある。また、サナカンと重なるところもある。霧亥も相応の理由があり、珪素生物を憎むのだろう。


・クソデカ珪素生物君。俺いっつも思うんだけど、リンベガとか都市移動しにくいと思うんだけど。どうなんでしょ。

・裾野の奮闘むなしく、珪素生物の増殖は止められなかったようだ。

・また、ネットスフィアというか、その警備部門のセーフガードの目論見は見事に破たんして、守るべきはずの人間は消え去ってしまった。俺思うんだけど、正規の接続ができる人間って、人類全体の割合からするとかなり少なかったのではないだろうか。選民的・特権的な階級。物語ではそこを逆手にとられて、ネットスフィアのシステムを統御する資格を持つ人間がいなくなってしまった。他方で、ネットスフィアは都市の管理をほぼ一任されているだろうから、そのまま暴走してしまい、都市は拡大の一途をたどる。珪素生物としては、アンコントロールな都市の状態は棲むのに最適な構造。以前考察したように、正規の接続者不在+都市の暴走というシチュエーションは珪素生物がある段階で達成したことがらなのかもしれない。


クローサーはいつの間にか死んでてちょっと面白い。けれども、どこかで裾野とクローサーにも、ドモとイコみたいに何か物語があって、それで別れがあったのだろう。裾野は一人になってしまった。弐瓶世界ではこれは結構厳しい。珪素生物も、『バイオメガ』の東亜重工のエージェントも、『人形の国』のエスローとタイターニア、あるいはケーシャたちは複数で任務を遂行する。裾野はそれができなくなってしまった。ただ強力な武器を持って都市をあてどなく彷徨う。裾野にも、長い人生の中で、霧亥にとってのシボや、裾野にとってのクローサーのようなパートナーが再び現れたのだろうか。それはわからない。

【NOiSE 全話紹介&解説】 第五章 屍の暴走

死んだはずの裾野は、電脳空間で目覚める。これはセーフガードが裾野を自らの組織のエージェントとして迎えるため、裾野の意識を回収したもの。裾野にネットスフィアとセーフガード設立の趣旨が説明される。ネット接続権の無いものは積極的な排除がなされるとのこと。裾野はこうしたことに与することを拒絶するも、セーフガードは彼女に選択肢はないと言う。身体改造がなされた裾野に、電子界からクローサーが語りかけてくる。目覚めることができた裾野は、改造手術の場から脱出。同時に進行してきた珪素生物を圧倒して退ける。

 

ネットスフィア、セーフガード、珪素生物の微妙な関係が明らかにされる回。現在接続企業(プロバイダのようなもの?)は多くあるが、ネットスフィアがそれを統一すると言う。行政を担う統治局も、すでに業務の大部分がネットに依存しているから、ネットスフィアに深く依存せざるをえない。ネットスフィアの接続に関する見張り役がセーフガード。セーフガードはかなりの選民思想を持っており、ネット接続の無い者を積極的に排除すると言う。

・正義感にあふれる裾野はセーフガードの思想を拒絶。さて、セーフガードは何で裾野を起用しようと考えたのだろうか。今回、裾野に最新の改造が施されるわけだが、何で彼女なのだろうか。思考は洗脳を施されるのだから、組織の「はみ出し者」を候補にしたのだろうか。裾野は何者かによって市民権をはく奪されていた。これが良かったのかも。私は、市民権はく奪は教団の仕業と考えているけれども、裾野に改造を施すため、存在を消す目的でセーフガードの側が市民権を操作したのかも、と考えるとまた面白い。あるいは、裾野に何らかの適性があったのかもしれない。弐瓶氏の最新作『人形の国』では、正規の人形になるための適性がある。裾野にはそれに類する要素があったのかも。

・ともあれ、目覚めた裾野はしっかり自分の身体の特性を活かして珪素生物を退ける。

・裾野の変身能力。弐瓶氏はこの身体を覆うような変身技術が好みの様で、複数の作品に横断的に登場する。このあと、アバラでは那由多や駆動電次ら白ガウナが活躍するし、『バイオメガ』ではカーダルスピンダルがかっこよく敵幹部の威容を示す。さらに続く『シドニアの騎士』ではつむぎの変身なんかでこのパターンをお目に掛けることができるし、最新作『人形の国』では正規人形たちが変身して一瞬の活劇を繰り広げる。裾野はこれらの原型といっても良い記念するべきキャラクターだ。『アバラ』なんかは、無理やりに改造させられた者の悲哀みたいな点も『NOiSE』と被るところがある。


・さて霧亥の問題だ。なんとなく、この裾野のシチュエーションを見ると霧亥の組織への潜入や、記憶が希薄な点へのヒントになりそうだ。本考察でも以前にちょっと触れているけど改めて考えてみよう。裾野は頑丈な身体に改造され、洗脳されかけたところでクローサーの活躍で脱出した。裾野はもともと人間で、改造手術を受けた。霧亥は「セーフガード以前のシステムの密使」と作中言及がある。セーフガード以前、たとえば警察のような保安組織があって、そこから派遣されたのが霧亥なんだろう。セーフガードは作中で明示されるようにある種の危うさを孕んでおり、実際にその仕組みは宇宙に最悪の状況をつくり出してしまう。それ以前の保安組織から、セーフガードの暴走を内部から抑制・阻止するために霧亥が派遣された。『BLAME』という弐瓶氏のデビュー作には霧亥という名の警官がいるのも想起したい。さて霧亥もまた、裾野と同じように改造手術なりなんなりしてセーフガード入りを果たしたのだろう。密使としての活動はどこまで成功したのか解らない。霧亥の身体はどこかの段階でセーフガードの管理下から逃れて、あるいは何者かにより奪取されて、『BLAME!』の時代には犬女の一派により使役される。最終的に都市を放浪する裾野(寿命もなさそうだ)と同様に、霧亥も都市を彷徨うことになる。こんな感じで、裾野はセーフガード機構から脱出してみせ、それは霧亥の出自に何かヒントを与えている。


・如上の問題と絡んで、セーフガードの身体性について。生身を改造するのか、電磁的な存在が都度ダウンロードされるのか。『NOiSE』世界は、まだ物理的な社会だ。この話では、興味深いことにセーフガードの武装兵が登場する。『BLAME!』ではセーフガードといえば問題が起こった際に、都度ダウンロードされるシステムが常套になっている。『NOiSE』の時代では全然そんなことにななっていない。ネットへの接続も、インプラントで有線接続することが描写されており、また、先端技術として教団が盗んだダウンロード系の技術が示されている。裾野は改造人間になったわけだけど、データがネット上にあって都度ダウンロードされるような存在では、今のところは、ないだろう。仮面ライダーみたいな単発で強力なエージェントなわけだ。多分、システムの密使としてやってきた霧亥もそう。生身の存在がセーフガードの任に当たるのが『NOiSE』の時代。時は流れて『BLAME!』の時代に至るまでのどこかの段階で、ネットにこうしたエージェントたちの情報が(いくらか感情などの余計なデータは整理された上で)、電磁化されて、適切な場所にダウンロードする仕組みが一般化したのだろう。譬えると、私たちが最近音楽を購入する場合に、物理的なレコードやCDを買っていた時代から、ダウンロード購入に趨勢が移るようなものなのだろう。

・ということで、『BLAME!』のアンオフィシャルメガストラクチャーの内部あるいはその近傍にセーフガードの物理的な武器庫が存在し、霧亥がそれを使用しえたことは、意外にも彼らの出自を考える上で重要なのだ。化石的な設備が何かの拍子で生成されることもあるのだろう。

【NOiSE 全話紹介&解説】第4章 贄

都市の市民権をはく奪された裾野。通りかかったところにある公衆電話が鳴る。でると、死んだはずのクローサーが話しかけてくる。セーフガードという組織が裾野を探していること、教団が裾野を未だ狙っていること、そして教団が裾野を感知したことを伝える。珪素生物二体の襲撃を受けて、裾野は命を落とす。

 

ネットスフィアの公共サービスを停止される裾野1。組織の整理をしよう。まずは、ネットスフィアネットスフィアは、ネット接続に担保された色々なサービスを展開する会社組織。我々の住む世界で言うところのプロバイダーのようなもの? あるいは郵便局や銀行ATMのシステムを管理する組織。携帯電話の会社みたいな印象もある。まぁ、こういうネット接続や電算を総合的に扱う存在なのだろう。そして、統治局。統治局は『BLAME!』本編の考察でも書いたけれども、行政組織のようなものなんだろう。それで、統治局は電子化が進む社会の中で行政サービスをかなりの割合でネットスフィアに委託している。

・次の話で明らかになるけれども、ネットスフィアは、色々な接続企業を統合するらしい。プロバイダが一社だけになる。そして行政やそれ以外の重要なサービスについて、ネットスフィアが大部分を担うことになるのだろう。

・セーフガードはネットスフィアの一部門で、私たちの世界のインターネットでさんざん議論されているところだが、ウイルスに対するファイアウォールのような存在。サイバー警察のような存在。


ネットスフィアの公共サービスを停止される裾野2。裾野の意に反してサービスが停止された。動きとしては、ネットスフィアを誰かが操作して、都市の市民権を失効させたのだろう。統治局に問い合わせるもダメ。カードでも腕のナンバーでも、すでにネットスフィアを介しての接続で、ネット接続で失効させられたらお手上げな感じだ。もし、役場みたいなところがあって手作業で確認できるのならばまだ希望があったのかもしれない。だが、行政サービス・公共サービスは既に大部分がネット経由でなされる。そこを改変されたら手も脚も出ない。

・では、誰が改変したのか。教団の可能性が高いだろう。教団はネットスフィア(に連なるセーフガード)の技術を盗んだ。ということで、ネットスフィアに干渉することが可能なのだろう。裾野の市民登録を外した。保護を外して、襲撃しやすくした。

・裾野の登録を抹消したのは、統治局あるいはセーフガード自身かもしれないとも思うけれども、そんなまわりくどいやり方して、裾野をセーフガードにするだろうか。ま、私は教団が登録を抹消したと考えるけれども、セーフガードが仲間に入れるために裾野の市民登録をなくした可能性を否定する材料もまたない。


・電話掛けてくるクローサー1。まず、裾野電話持つ時女の子の持ち方になっている。クローサーと恋人だったのかな、あるいは想いを寄せていたのかな、と思っている。

・電話掛けてくるクローサー2。クローサーは何で電子的な存在として「生き延びる」ことができたのだろうか。あるいは身体を駆除系にされると、クローサーに限らず意識は電脳空間に弾き飛ばされるのだろうか。クローサーはうまく自己を統合することができるようだ。もしかしたら意識が電脳空間に拡散してしまう人間もいるのかもしれない。

クローサーはネットにいるので、色々な情報を持っている。教団が裾野を狙っていること。セーフガードもまた裾野を探していること。

 

珪素生物の襲撃。珪素生物もネットスフィアの技術が使われているので、裾野の刀が反応する。単純な駆除系とはことなり、ペアで動く珪素生物には敵わない。裾野は死んじゃう。

 

【NOiSE 全話紹介&解説】第三章 ネット端末移植

最下層の旧市街で、誘拐事件の独自調査を進める裾野。ネット端末移植のない子供だけが狙われていたことを知る。

 

・裾野のモノローグばかりの回。けれども、いろいろ都市が描写されていて面白いぞ。

・最下層の旧市街。ここの社会はかなり格差がありそうだ。

・派手な格好の裾野。ミニのワンピースを着用。なんでだろう。警察の格好だと、ここでは厭われるのかもしれない。色仕掛けをしたのかも。上層の人間、あるいは上層の秩序はあまり歓迎されないような雰囲気がある。

・集団トイレ! いいなぁこれ。禅宗のお寺みたいだ。あるいは古い中国のトイレみたい。

・子供の張り紙。行方不明になった子供たちだろうか。ここに霧亥っぽいのがいるというのは古くから知られている。ただ、もしこれが霧亥だったら色々つじつまが合わない気がする。警官時代の大人霧亥って『BLAME』で描かれている。ここで珪素生物(教団)側にいくのはちょっと流れが合わなくなるのではと思う。

ラクダみたいな生き物。こういうのいいよね。多分、ゲップの成分を採集して都市に必要な何かを生産しているのではなかろうか。

・双子? みたいな子供たち。おじさんも一緒だ。アウトローの親玉の一家なのだろうか。裕福。ネット端末あり。彼らは誘拐されない。


・ということで、ネット端末移植。インプラントされている。彼らは誘拐されない。インプラントのある子供を素にしてネットのカオスにつなげようとすると、結局インプラントを経由して通常の接続になってしまうのだろう。正しい接続が身体に基礎づけられている。逆に、インプラントがなければ、カオシックな技術を子供たちに施せる。正しいネット端末移植は不正接続への防御になりうると考えたい。

・ネット端末移植その2。『BLAME!』の作品世界においては、ネット端末は遺伝子に組み込まれている。有線で結ばなくてもよくなっている。最近の現実の世界では、ネットも無線接続が多くなった。こうした有線⇒無線の技術革新がこのあと起こるのだろう。そして、それは遺伝子に担保されている。確かに、現在スマホで色々認証したり支払いしたり便利になっている。もしもそうしたものが身体に内蔵されていたら……とても便利だ。免許証とかキャッシュカードや電子マネーの機能とか。身分とネット接続とが身体によって直結している状態。私たちの社会もこうなっていくかもね。スマホ、たまにどこかになくす人いるけど、現今無くすととっても不便だし危険がある。だからスマホの位置情報なんかを追跡できるようになっていたりもする。スマホ、体内に内蔵しちゃえばいい、となるかもしれない。絶対なくさないし、生体認証も確実だし。まぁ、『BLAME!』の世界では遺伝子にネット接続の権利を乗せる仕組みを逆手にとって、珪素生物がうまくやり込めるわけだ。

 

・ネット端末移植のない子供たちは下層に住んでいる。低い身分の子供たち、となるだろう。ちょっと想像が逞しくなるけれども、教団の側はもしかしたらこうした貧困層の子供たちを救済する目的があったのかもしれない。セーフガードの仕組みが出来あがってしまったら、ネット接続できない人々は排除されてしまう。このことは、このあとセーフガード自身の口から語られる。そうしたことへの自衛、という側面もあるのかもしれない。

・そうなると、教団はただ駆除系みたいなタイプの珪素基系兵器だけを生みだしていればよいわけではなくなる。次話に、いわゆる珪素生物がはじめて登場する。それまでは、ネットのカオスを使った駆除系タイプの珪素生物のみが登場していたに過ぎない。もしかしたら教団のセーフガードからの技術窃盗には二段階あるのかもしれない。始めは駆除系タイプの技術だけ。その内、裾野が手術で施されたような珪素基系の人格を持つ生命体の技術。後段になって、ネットスフィアとセーフガードに対抗しうる技術的な手段を得て、それを展開していく。

 

・都市の風景。まだ人が都市にひしめいている時代。下層の地域も、独特の活気があることが読み取れる。とってもいい。このあたり、現実にかつてあった九龍城砦の雰囲気にかなり近いと思う。とてもグッとくるので、知らない人で気になる人はぜひ九龍城塞、調べてみてね。